次の1手の脳研究

 富士通理化学研究所が共同研究で、将棋などの次の1手を判断する脳のメカニズムの研究を進めているという。脳研究というとニューロコンピュータとか、脳のアイデアをコンピュータに応用する話を想像するのだが、これは本当に脳そのものの研究らしい

次の一手を考えるプロ棋士の脳を解き明かせ―富士通と理研が共同研究

なぜ将棋を局面の判断での脳の働きを、研究のサンプルにするのかはわからないが、将棋のプロの思考が常人よりも異常に研ぎ澄まされているから、脳波の測定などもやりやすいということなのだろうか。


 10年ほど前に、羽生がタイトル七冠独占したフィーバーが社会現象みたいになったことがあったが、その頃、対局中の羽生の脳波を測定するのような実験があった。それによれば、一般に論理的思考は左脳を使うはずで、多くの将棋指しも左脳のサーモグラフばかりが反応していた。
 ところが羽生の場合、左脳ばかりでなく、右脳の方のサーモグラフにも反応が見られた。右脳はどちらかといえば図形的、情緒的な思考を担う。そのときの推理によれば、羽生は順に1手ずつよんでいるのではなくて、直感的に先の盤面のイメージが見えてしまう。手の読みとは、そのイメージに向かっての手順を埋め合わせていくだけでよい、ということだった。


 不思議だったのは、どうして羽生は預言者的な先の盤面のイメージが湧くようになったのだろうかということである。これは確かに数学者の直感とか、芸術家のインスピレーションと似たようなものかもしれない。


 そして、スポーツばかりでなく、局面の直感的判断に小脳が働いているのではないかということだ。可能性のある手順の中から、一瞬のうちに正しい順を選び出す能力は脳の超並列的な思考によるものなのかもしれない。
 将棋ばかりでなく、いろいろな分野のプロについて実験できた方が面白いかもしれないが、囲碁や将棋の棋士は、座ってやるので測定しやすいのかもしれない。


 脳研究もさることながら、興味を引いたのは、この研究成果をSecond Lifeで公開して、さまざな議論にも使うということだ。今後は、世界的にオープンな共同研究やらネット上での学術的議論にも、Second Lifeが利用するようになる試みにもなっているのかもしれない。考えてみれば、これはWebのしくみが発明された時の動機そのものだった。