年金記録名寄せ問題

 政治の話はパフォーマンスだけでどうにも理解しがたい。今年1年世間を騒がせた年金記録の不明問題、いわゆる「消えた年金問題」であるが、当初は1年でシステムを開発し、コンピュータで自動化して名寄せを完了できると公約してきた。
 今になって、やはりコンピュータ照合作業の結果、5千万件のうち4割は特定不可能だと判明したというのである。この話、何も今の福田内閣、舛添厚労相になってからの話ではなく、前の安倍内閣の時から継続しているだけの話である。

福田公約違反、年金4割特定ムリ…宙に浮いた5千万件(ZAKZAK)
名寄せで解決しない年金記録問題(ITpro:2007/06/18)

 大臣は役人から上がってくるだけの報告を、あるときは鵜呑みにし、あるときは政治的都合から無理難題を押し付けることもあるだろう。しかし、この話はどんなものかと思う。内閣批判などを言う以前に技術的問題である。マスコミはすぐに政局の話だけにしたがるが、調べてみればすでに困難さはわかっていたはずである。これは以前の記事でもすでに指摘されていた。


 「プログラムを作っているから自動化して大丈夫」などということを厚労相も楽観的に当初は語っていた。そう思っていたということは、役人がそのように知恵を付けていたのだろう。その根拠はNTTデータと日立が請け負ったからという理由だったのだろう。
 請け負った方は、プログラムは作れるだろうが、そもそも年金記録のデータ、あるいは旧態依然とした手書きのデータベース?をどれだけ把握していたのだろうか。業務上とはいえ、個人情報の関係するデータだけに開発担当者にどれだけ実際のサンプルが提示されたかはわからないが、結果的に4割も処理不能が出るということは、元のデータの実情の精査がなされていなかったとしか思えない。サンプルデータが10件あれば4件は、エラーしか出さないことになる。そんなものは普通に考えればコンピュータでの処理とは言えないものだろう。


 結局、開発側にはそうしたデータの実情は開示されずに、単に記録のフォーマットだけが示され、単純にパターンマッチングをするだけのプログラムしか作りようがなかったとしか思えない。むろん開発者に責任は問えない。前大臣と社長の会談で決まったとのことだが、こういうものは一番危ない。トップは実情がわかっていない場合が多いからである。その介在をしている役人も、大臣に指示され信頼できる企業が引き受けたから大丈夫くらいに思っていたのだろう。しかし現場レベルになると、本当のデータは都合が悪いからか開示しない。開発側も型通りに作るしかなくなる。下請けに出していたりすればますますデータの実情はわからなくなる。結果として、実際のデータを通すとエラーだらけになる。でも、結局誰も責任は取らない。大臣が国会答弁で開き直ったり、お詫びするだけである。まさに硬直したシステムの典型である。


 「コンピュータでやっているから大丈夫」というのは素人の考えで、その前に人間がちゃんとお膳立てしていなければならないことを理解していないとしか思えない顛末である。