羽生が名人位奪還・永世名人資格獲得

 将棋名人七番勝負第6局で挑戦者の羽生が森内名人(18世名人資格者)に勝ち、4勝2敗で名人位を獲得、5年ぶりの返り咲きとなった。これで名人位獲得通算5期となり、規定により19世永世名人有資格者となった。将棋名人が実力制に移行した戦中から戦後に誕生した6人目の永世名人となった。

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 誰から見ても稀代の実力者である羽生が、その象徴である永世名人資格だけは、なかなか獲得できなかったのはどう見ても不自然のように思えたが、これでやっと正常な姿になったことになるのだろうか。戦後60年にたっても永世名人は6人しか誕生していないのも、大山、中原だけで30年以上も名人位が独占されていたことにもよる。その後は5期維持するだけでも至難の業となっているようである。実力者の層が厚くなったこと、将棋の研究がデータ戦になってきたことの影響もあるのだろう。すべてのタイトル戦に登場し、年間の対局数でもハードスケジュールの羽生の将棋は、プロ間でも徹底的に研究される対象である。そうした最もマークされている存在であっても、トップを維持し続けて20年近くになる。テレビ画面で見る今年37歳になる羽生の頭にも、白いものが混じりはじめていた。永世名人資格の獲得では、少年時代からのライバルであった森内名人に昨年先を越され、意外なことに37歳は、これまでの永世名人の中でも最年長での永世名人資格獲得になる。


 それでも将棋を知る人からすれば、なるべき人がなったという安堵感みたいなものがあるようである。それだけ永世名人というものは、将棋の歴史の中では特別の存在だからである。そしてタイプとしてはこれまで考えられなかったオールラウンドプレイヤーであるということである。将棋の場合は大抵のプロは得意の形、戦型というものを持っている。相撲で言えば、押し相撲、四つ相撲みたいなものか。ところが羽生はどんな戦型でも指しこなし、むしろ相手の得意の形に敢えて踏み込み、それでも勝ってしまう。それがタイトル戦の重要な一戦でもそうなのだから、どういう感覚をしているのかと思ってしまう。無理に解釈してみれば、羽生は血液型がAB型であるせいかもしれない。実は自分もAB型なのだが、この血液型は分裂傾向である。本人は一貫しているつもりでも、他人からすればあちらこちら脈絡のないことをやっているように見えるらしい。羽生も将棋でオールラウンドの戦型を使い分ける方が、精神的バランスを取りやすいのかもしれない。その中から天才的な手が生み出されるのかもしれない。とはいえ、羽生の将棋が本当に強いのは、1手1手は普通の手のように見えるが、それが流れの中で自然に勝利の方向に向かうところである。相手は何が失着だったのかよくわからないままに負けてしまう。プロはそれを大局観という。羽生はその大局観が異常に優れているというのが、天才の天才たる所以であろう。


 さて、やっと羽生は名実ともに将棋の歴史に足跡を残すことになった。あとは今後の記録達成である。名人戦は朝日・毎日の共催となっており、また王将位も保持しているが、もう1つの大きなタイトルである讀賣竜王位をあと1期獲得すれば永世竜王となり、同時に将棋界7大タイトルすべての永世位を獲得することになる。そして生涯タイトル獲得通算69期となり、大山15世名人の大記録80期を完全に射程距離に捕えたと思われる。これから突然無冠に転落でもしない限り、あと数年で達成しそうな情勢である。また瞬間的には、25歳の時に達成した七冠全冠制覇が再びという可能性もある。これには今挑戦中の棋聖戦で勝利し、昨年失冠した王位の挑戦権を獲得して奪還し、また竜王戦棋王戦の挑戦者トーナメントを勝ち抜かなければならない。ただでさえ対局だけでも他の棋士に比べてハードスケジュールなのに加え、羽生には将棋界の顔としての仕事も山積みである。その中でも勝ち続けるのは年齢的にも、かなりきついことである。まして羽生と戦うレベルでは強豪だらけであり、みな全力を尽くして当たってくる。それらもはね退けて、羽生がどれだけの生涯記録を残すかが今後の注目するところとなった。また、そろそろ40歳に近づいてきて、将棋のような頭脳ゲームでどこまで全盛期が続いていくかという関心もある。