羽生が8年ぶり棋聖を奪還し4冠

 つい先日、名人位を奪還して19世永世名人称号の資格を得たばかりの羽生が、引き続く産経新聞社主催の「棋聖戦」でもタイトルを奪還し4冠に復帰した。中日新聞などの新聞社連合主催の「王位戦」も進行中で、こちらも第1局で先勝しており、現時点では5冠復帰も現実的になってきた。

羽生挑戦者勝ち4冠、8年ぶり棋聖奪還 (msn 産経ニュース)

 7冠の中でも、羽生にとって棋聖がもっとも相性はよくないタイトルのようであり、7冠保持が最初に崩れたのも棋聖だった。また近年では8年間もタイトルから遠ざかっていたことからも、それがわかる。逆に最も棋聖と相性がよかったのがライバル佐藤であり、今回の5番勝負も羽生が連敗し早くもカド番に追い詰められていたことから、奪還は難しいと見られていた。ところが名人戦が終了して棋聖戦に集中できるようになったためか、2連敗以後逆転の3連勝で奪還を実現してしまった。


 何しろ今年になってからの羽生の強さは手が付けられない。おそらく11年前に史上空前の将棋7冠を達成したとき以来の勢いに匹敵するといえるだろう。特に名人戦4連覇中だった最大のライバル森内俊之を倒し、棋聖戦ではこれまた最大のライバルの棋聖戦6連覇中だった永世棋聖資格者の佐藤康光も倒したことにより、再び名実ともに羽生時代が実現したといえる。これまでは羽生が最強とは誰もが認めつつも、タイトル的には名人、竜王棋聖などの有力タイトルからは遠ざかっているなど、不自然な勢力図だったといえる。それを短期間に最大ライバルの2人から、立て続けに直接タイトルを奪い返したのだから、羽生強しの感が強い。


 残るは昨年最終局の土壇場の逆転負けでタイトルを奪われた王位戦のリターンマッチに勝ち、竜王位と棋王位を奪還すれば、再び7冠も夢ではなくなった。ただし、そうなれば年間を通じての過密スケジュールとなり、若かった11年前とは異なり、年齢的にもかなりキツイ立場になることは間違いない。それでもファンは羽生にそうした超人的強さを期待してしまうのだろう。


 その竜王位を4期連続で保持しているのが、羽生よりも1回り若い、若手最強の渡辺明である。次世代のトップ棋士であることは間違いがないが、名人戦ではいまだにA級リーグにさえ上がっていない。ただ竜王戦では森内、佐藤と連破しており、5連覇まであと1期で永世竜王資格を獲得するところまできている。ところが羽生は通算ですでに6期獲得しており、通算の場合には7期で永世竜王資格獲得できる規定であることから、もし羽生が竜王戦でも挑戦者になれば、初代永世竜王を賭けた一騎打ちという興味深いタイトル戦が実現することになる。また羽生にとっては竜王位が最後の達成していない永世称号資格でもあることから「永世7冠」達成もかかるタイトル戦となるのである。現在の勢いならば、もう今年中に記録的な永世7冠まで達成してほしいと誰しもが期待し始めている。


 羽生にとってはタイトル戦で勝つよりも、挑戦者になるまでの方が大変であると思える。特に竜王戦は予選から決勝まですべてトーナメント勝ち抜きであるから、一部敗者復活はあるものの、1敗もすることもできない。現在はその敗者復活からなんとか勝ち上がり、ようやく決勝トーナメントまで進出したところである。あとは挑戦者決定戦の3番勝負を除き、1敗もできない過酷な状況である。羽生は他のタイトル戦の合間に、これらのトーナメントを戦い勝ち抜かなければならないのである。

第21期竜王戦決勝トーナメント(日本将棋連盟)

 羽生の場合、記録達成のための最大の敵は相手ではなく、勝ち過ぎる故の過密スケジュールである。ひどい時には2日がかりのタイトル戦を2,3日おいただけで、別の地域に転戦などということにもなる。相手は1つのタイトル戦に集中して羽生対策に専念できるが、羽生だけは掛け持ちで対局場となる全国のホテルや旅館を、それこそ北海道から九州・沖縄までと駆け回る。その合間にイベントやら講演会やら、トップ棋士としての公の雑事もこなさなければならない。まさに売れっ子の芸能人並みだが、羽生はマネジャーもなしでこれらをこなしているのである。強すぎるからとはいえ、羽生1人に依存する将棋界という気がしてならない。といって羽生がワンマンになってその世界を取り仕切っているわけでもない。もう少し羽生の負担を軽くするためにも、スケジュールとかマネジャーとか、何とかしてやれないものかとも思ってしまう。羽生が勝てなくなるときは、心身ともに消耗が大きくなってしまうからではないかと思えるからである。


 ともあれ、たとえ短期間であっても、超人的な再度の7冠制覇と永世7冠達成を期待していたい。