羽生名人が永世七冠への竜王挑戦権獲得

 ついに羽生が竜王戦の挑戦権を獲得した。春に名人を奪回して永世名人資格を獲得してから、将棋界の7大タイトルの中で永世資格を獲得できていないのは竜王だけになっていたが、ようやく最後の1つにリーチをかけたことになる。羽生の竜王戦登場は実に5年ぶりであり、いかに挑戦権を得るまでが大変だったかということがわかる。今期も敗者復活戦の1局も落とせない苦しい状態からの逆転の挑戦権獲得である。

羽生名人、渡辺竜王への挑戦権獲得・・初の永世7冠目指す(YOMIURI ONLINE)

今年になってから7大タイトル戦すべてに登場しているのは、羽生側から見て次の通りである(参考:日本将棋連盟サイト 9.12現在)


上の一覧は何も羽生個人の年間対戦表のわけではない。公式タイトル戦の結果と経過である。北京五輪で水泳フェルプスが8冠を達成したが、毎日午前も午後も予選と決勝の泳ぎをやっていたようなものだと解説者が言っていたが、羽生の対局も年間を通じて、毎週タイトル防衛戦や挑戦権争いをしているようなものである。

 今年の始めに棋王の奪回に失敗したが、同時進行で王将戦の防衛、名人挑戦者を決めるA級順位戦の進行など重要な対局ばかりと重なっていた。ただタイトル数が減ると羽生は不調だとか衰えたと言われる。他の棋士がタイトルを1つでも獲得すれば好調とか快挙と言われるのとはえらい違いである。
 しかし名人挑戦者となり、名人を奪還してからは明らかに流れが変わってきた棋聖戦も2連敗で後がなくなってから3連勝で逆転のタイトル奪回、王位戦も1勝3敗から3勝3敗のタイまで持ち込み、最終戦に奪回をかけることになる。その合間に竜王戦のトーナメントを勝ち上がり、挑戦者として名乗りを上げた。毎回が負けられない1戦が続いているが、次は王位戦の最終戦に5冠目を賭ける。そして同時進行で王座戦の防衛戦があり、こちらはすでに1勝を挙げている。
 それらを切り抜けると、やっと竜王戦7番勝負にある程度専念できそうである。ただし年明けの棋王戦で奪回を目指すには、その間にある予選を勝ち上がらなければならない。


 タイトル戦では毎回別の相手が次々と羽生の前に立ちはだかり、それらをバッタバッタと倒していっているかのようである。まるでテレビゲームで次々に出てくる敵のキャラクタを次々に粉砕するかのようである。それも楽勝というわけでなく、毎回追い詰められて最終戦まで持ち込んで最後には勝つというパターンが多いので堪らない。11年前に達成した同時七冠というのは、スケジュール上あまりにも無理があるので、瞬間的に達成できたとしても長期には不可能のことと思われる。たとえば、あるタイトル戦に勝利して同時七冠を達成した数日後の別のタイトル戦で失冠ということもありうるのである。

 ところが竜王戦を挑戦権を獲得したことで永世竜王資格の獲得はおろか、再度の七冠の可能性さえ出てきた。そのためにはフルセットに持ち込んだ王位戦には勝ち、棋王戦の決勝トーナメントを勝ち上がることである。


 さて永世七冠のかかる最後の竜王戦の相手はラストボスというわけではないが、若手筆頭の渡辺明である。24歳の若手とはいえ竜王獲得以来、森内、佐藤という羽生の同世代のライバル達を堂々と退けてきた。羽生とは1度だけ王座戦5番勝負に挑戦し、2勝2敗と追い詰めたことがある。最終戦に終盤ギリギリで羽生が勝ったのだが、羽生は土壇場の1局の終盤にやっと勝ちが見えると手が震えだすと言われるようになったのは、確かこのとき以来のことである。最近ではタイトル戦ではないが、初のネット対局戦で渡辺と対戦し、中盤にさしかかったあたりで羽生が思わぬクリックミスを犯して時間切れで敗れるというオチがついた。これは両者の対戦を予想する上では参考にはならない。


 王座挑戦者になったのは竜王獲得以前のもっと若手の頃のことだから、もはや当時の渡辺でもないだろう。羽生37歳、渡辺24歳と一回り以上違うわけだが、渡辺の24歳という年齢は将棋界の歴代トップの中では決して若くもない。永世名人では羽生23歳、谷川21歳、中原24歳が最初の名人獲得年齢である。渡辺は竜王こそ4年連続で防衛しているが、歴史ある名人戦の挑戦者を決める順位戦ではいまだにB級にとどまる。格の上では明らかに羽生が上であり、よほどの不調に陥るかアクシデントが生じない限り、羽生の竜王奪回の可能性が高いとみるのが大方の見方だろう。昔であれば、24歳くらいの挑戦者が時の長期に君臨する第一人者を破り、世代交代がなされるという期待がかかるところだが、今回も主役はやはり羽生である。