中原十六世名人が引退

 将棋の大名人の中原誠十六世名人が突然引退を発表した。昨夏に脳出血で倒れ、復帰が不安視されていたが、結局引退を決断することになった。昨年は一流どころも倒し好調だっただけに、病気が原因の引退は惜しまれるところではある。ただ実績、記録的には、すでに大山、中原、羽生と3本の指に称されるくらいなので、やり尽くしたというところではある。

将棋:中原十六世名人が現役引退(毎日jp)
中原誠十六世名人「羽生さんと戦いたかった」(Sponichi Annex)

 A級から陥落して、名人戦に繋がる順位戦には出場できないフリークラス所属とはなっていたが、他の棋戦での、特に竜王戦での活躍は光った。数年前には挑戦者決定戦三番勝負まで進出し、それに勝てば当時の羽生竜王とのタイトル戦が実現する寸前だったが、惜しくも森内名人に1−2で敗れた。ファン以上に中原自身が一番惜しかった気持ちが記者会見でもよくわかる。


 昔の将棋名人の世代交代は、歴史的出来事だった。木村から大山へ、大山から中原へとそれは起きた。ところがその後はどうも不本意な交代しか起きていない。世代的には中原を追い落とすのは谷川だと思われていたが、中原はまだ元気で谷川から名人を取ったり取られたりを繰り返した。
 そのうち中原よりも年長の米長が中原を下してしまう。そしてそのすぐ翌年名人を獲得したのが羽生である。では羽生名人の時代がそのまま続くかと思いきや、谷川が1期だけ奪い返し、十七世名人の資格を獲得する。その谷川も1年で、羽生のライバルである佐藤、丸山そして森内へと名人を明け渡してしまうことになる。羽生が名人に復活できないまま、先に5期防衛した森内が十八世名人の資格を得てしまう。羽生はやっと昨年、名人を奪回して十九世名人の資格を得た。


 大山18期、中原15期、谷川5期、森内5期、羽生5期というのが、近代の永世名人資格者の実績である。永世名人と言われる人は10年以上も名人の座に居続けるというイメージは、もはや中原までになってしまったのかもしれない。羽生でさえ、現在の38歳という年齢を考えれば、あと5年以上防衛を続けるのは難しいと思える。なので、記録的な意味での大名人は、もはや中原が最後になるのかもしれないのである。


 ところで、将棋の引退年齢というものは、どうもはっきりしない。スポーツのような体力や肉体の勝負よりは、頭脳勝負だから年配になってもやれると考えがちだが、タイトルを争うトップレベルとなると、体力的、集中力の持続などの面で、近年ではもう30歳代までではないかとも思える。無冠になってもすぐには引退はしないが、スポーツ選手の寿命とあまり変わらなくなってきているかもしれない。


 大山十五世に敗れた木村十四世名人は47歳で引退している。ところが大山は怪物で50歳前に中原に敗れて名人を失うも、その後もタイトルにもからんで、60歳過ぎてからも名人挑戦者になったこともあった。69歳でガンで亡くなるまで、名人を狙えるA級の地位を維持し続けた。その大山の弟子である73歳の有吉九段は現役棋士の最下位クラスであるC級2組陥落寸前で、引退に追い込まれる寸前の最終局に勝ち、将棋界最高齢の現役続行を決めている。あと残っている古参棋士といえば、加藤一二三と内藤國男といったところか。
 もちろん永世名人と他の棋士ではやや立場が違う。相撲で横綱が負け越すようだと引退に追い込まれるが、大関だと陥落しても平幕まで取り続ける力士もいることに似ている。中原の場合、まだ三役クラスで頑張っていたイメージがあっただけに、61歳ながら病気で引退に追い込まれたのは、やはり残念ではある。今後はより広い視野から、将棋の発展の力になってほしいと思う。