欧州委員会がOracleのSun買収反対を正式表明

 OracleによるSunの買収は、米国司法省は承認したものの、欧州委員会が調査のために待ったをかけたために、夏ごろまでには正式な完了すると言われていたものが未だに完了していない。そして欧州委員会は、とうとう買収反対の立場を正式に表明した。

欧州委員会,オラクルのサン買収に反対の姿勢を正式表明(CNET Japan)
Sun決算、1億2000万ドルの赤字―Oracleによる買収の不確かさが影響

 欧州委員会の反対の理由は、買収によるMySQLに関する懸念からである。オープンソースデータベースであるMySQLが、競合するプロプライエタリのデータベースであるOracleによって、阻害されるのではないかということである。これはOracleのSun買収が明らかになった時点で、MySQLを知っている者がみな持った懸念だろう。「これでMySQLも終わった」と言う人さえいた。SolarisJavaは、ある程度歴史もあり、十分に市場に根付いているものであるから、OSや言語が専門でないOracleが大きく方針を変えることはできないだろうと思われる。


 だが、MySQLLinux中心の世界の新興市場であり、Web2.0以降のオープンソースによるWebサービスの普及に、縁の下の力持ち的な存在感を示してきたといえる。一方、Oracleデータベースはその真逆のエンタープライズ市場の高価なデータベースを提供してきた。その意味では顧客は重ならないともいえるが、MySQL出現以来、新興の中小の市場をどんどん持っていかれるのを、Oracleは苦々しい思いで見てきたのは確かであろう。今はエンタープライズ市場の顧客でも、企業が経費節減とか規模拡大の折に、コストがかからないオープンソース市場のMySQLを採用してしまうという可能性は十分にあるわけである。そうした恐れから、4−5年前から、Oracleの無償版であるExpress版を提供しだしており、IBMMicrosoftも同様で、データベースは一気に無償版が出揃うことになった経緯がある。


 またMySQLはSunに買収されてから日も浅い。Sunが買収を決める前には、Oracle自身が買収しようとして失敗した経緯もある。だからOracleがSunを買収したときも、実は最大のターゲットはMySQLではなかったのかと言われたほどである。その推測は、おそらく当たっているのではないかと思う。単にワークステーションSolarisJavaならば、これまで通りの提携でも十分だったはずである。すべて飲み込んでしまわなければ思い通りにはならいないと判断したのは、やっとSunの懐に入ったMySQLではなかったのか。


 米国司法省は裏取引があったかどうかはわからないが、データベースの競合は多くあるからと、意外とあっさりと独禁法には抵触しないと判断したが、欧州委員会の方はそうではなかった。もっとも欧州委員会はこの話に限らず、MicrosoftGoogleなどに対しても、しばしば厳しい立場を見せている。今回の反対表明もその独自の立場を貫いたといえるだろう。そしてこの反対意見は正当であると思える。


 企業同士の合併そのものは、反対しきれるものではないだろう。しかしSunはともかく、Oracleはこれまでの企業体質からして、あまりオープンソースというものを理解しているとは思えない。欧州委員会の反対に対して批難している姿勢からも、それが窺える。オープンソースの立場を考えるならば、IBMとかRedhatがやっているように、オープンソースソフトウェアは自社から切り離して、コミュニティを尊重してそのスポンサーの立場になるべきだろう。買収されることによって一番懸念を抱いているのは、コミュニティでありユーザだからである。


 そしてAmazonがクラウドの中にとしてMySQLをベースにしたデータベースを公表した。クラウドの中でもMySQLが大きな鍵を握ってきそうな情勢である。それがオープンソースの発展としてでなく、Oracleの戦略として動かされたくないというところである。商用データベースの競合とは異なる話だからである。もしMySQLに対する懸念が現実化するようだと、おそらくオープンソースMySQL互換のデータベースというものが出現してきて、これまでのMySQLユーザはそちらに乗り換えるという事態になるかもしれない。コンピュータの世界ではしばしば起きてきたことである。


 Oracle欧州委員会に待ったがかけられている時間の間にも損失が広がっていると批難するだろうが、欧州委員会にはMySQLの今後の担保を取るためにも、もうしばらくは頑張ってほしい。