羽生、ストレートで名人位を防衛

 羽生名人が名人戦七番勝負を4連勝でストレート防衛した。近年の七局目までもつれ込む展開からすれば、珍しく無風の防衛に終わった。裏を返せば、盛り上がらなかった名人戦だったともいえる。かつて史上初の七冠王を達成した羽生名人の、その七冠を崩したのが今回の挑戦者の三浦弘行八段だっただけに、再び羽生を脅かす存在になるかとも思われたが、羽生の方は盤石だったようだ。

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 最近の羽生はタイトル戦でも絶対的な強さはなくなってきているようだ。羽生対策が進んだせいか、羽生の衰えかはよくわからない。直前の王将戦では2−4でタイトルを失い、一昨年の竜王戦では3連勝から4連敗で奪還に失敗したりしている。今回の三浦八段は緻密な研究家とはいうものの、最近はだいぶ相性が良かったようでもある。羽生というより、羽生世代といわれた世代もそろそろ40代にさしかかってきており、プロスポーツ選手ではなくても全盛期は過ぎつつある年代である。


 ここ10年以上の名人戦は、名人も挑戦者もすべて羽生世代と谷川九段とが独占する舞台だった。そこにやっと羽生世代よりやや若い三浦八段が挑戦者になった。タイトル保持者も、現在は羽生世代では羽生以外にはいなくなっている。羽生の直接のライバルとされた佐藤康光九段も無冠でA級から降級の憂き目にも遭っている。さすがに世代交代の時期に来ているのかもしれないが、さりとて若手では渡辺明竜王以外では、タイトルを奪取できそうなほど勢いのある若手はまだ見当たらないようである。


 羽生はこれで名人3連覇とはいえ、通算では「まだ」7期目である。まだ、というのは羽生への期待の大きさに比べればということである。タイトルの種類は増えたとはいえ、将棋の世界では「名人」は歴史に残る絶対的な存在である。史上最高80期のタイトル獲得を誇る大山十五世名人の記録に対して、76期とあと4期に迫った羽生だが、こと名人位に関しては大山18期、中原15期の記録のまだ半分にも及ばない。もっとも当時とはタイトルの数も違い、名人位の相対的な価値が下がっているとはいえるが、なにしろ羽生である。大山の記録をここ1年くらいの間に抜こうとしている羽生にしては、名人だけは在位年数がやや物足りなく感じられるのである。他の棋士では考えられないことである。年齢的にもこれからますます防衛が厳しくなってくるだろうが、少なとくも10期は名人でいてほしい。


 規定では名人在位通算5期で「永世名人」資格者となり、歴史に名を刻むことになっているが、やはり5年だけでは一時代を築いたという印象は薄い。10年一昔といわれるくらいだからやはり10年くらいは名人の地位にいてほしい。かつて大山はトップであり続ける条件を「先輩に勝ち、同輩に勝ち、後輩に勝つ」ことだと言った。10年以上トップに居続けることとは正にそうだろう。羽生も才能豊かな羽生世代の団塊の同輩との戦いは厳しいものだったが、そろそろ後輩に勝たねばならない年代にさしかかってきている。どこまで後輩の壁になり続けられるかによって名人の在位年数も決まってくることだろう。とはいえ、名人の在位年数はともかく、事実上羽生が将棋界のトップになってからは、すでに20年近くが過ぎようとしている。