鳩山首相辞任

 政権交代時の予想よりも、ずいぶんと早い辞任だった。マスコミの論調をみても批判だらけで、一体この国はどうなっているのかと思うばかりだ。曲がりなりにも一国のトップなわけだから、安易な批判ばかりでいいのかという気にもなる。


 もともと自民党政権への批判をマスコミが宣伝し続け世論誘導をして、民主党への政権交代になったともいえるわけだが、今度は矛先を変えてそのトップへの批判だらけになった。確かに沖縄の米軍の問題やら多くの問題が山積ではある。しかしそれは今に始まった問題ではないわけだから、たとえ政権が変わったからといって、半年かそこらですぐに解決するとは思えない。批判するだけの評論家は、では実効性のある対案を出せるのか。素人考えだけで、それをマスコミを通じて偉そうに吹聴するのも考えものだ。


 鳩山首相の個人的資質の問題もなかったとはいえないが、一連のことを見ていると、ブレーンがいなかった、あるいはブレーンになるべき人間が意図的にサボタージュしたのではないかと思える。このへんがアメリカ大統領と違うところかもしれない。ブレーンとなるべきは官僚か、外部の(本来の意味の)シンクタンクなどから招く人間でなければならないだろうが、いずれも機能しなかったのだろう。その結果、首相の言葉だけが空回りしたようである。批判する人間は、あたかも政治家が何でもやるかのように言っているがそうではない。トップに立つ人間はおおまかな方針を示すだけである(それが大きな間違いでなければ)。その後はブレーン以下があるときは無理難題の「実行不可能な指令」であっても、それを実現できるだけの実行力を示さなければならない。「国」を背負っているならばなおさらである。


 かつて田中角栄は中国との国交囘復交渉の際に、ブレーンである外務官僚らとともに中国に渡った。その際、交渉の土壇場になって中国側から無理難題を突きつけれられ、交渉は決裂寸前に追い込まれた。外務官僚らは真っ青になったという。その際、ひとり田中角栄だけは悠然と構えており「君たちはこういう修羅場を経験したことがあるか。ここが腕の見せ所だぞ。もっと知恵を絞れ」というようなことを言ったという。この言葉に励まされたか、スタッフは徹夜で打開策を見い出して再び中国側と交渉し譲歩を引き出すことに成功し、国交囘復にこぎ着けたという。この間、田中角栄は深夜に突如毛沢東に呼び出され、プレッシャーをかけられそうになったが、動揺する様子など一切見せず、堂々と毛沢東と渡り合ったという。だからこそ官僚の信頼も得ていたのだろうし、歴代の首相の中でも官僚を使いこなすことができたのは田中角栄だけとも言われたゆえんなのだろう。


 近年は首相は誰でも大した変わらないようだし、政治家も多少の知名度さえあればその辺の兄ちゃん、姉ちゃんでもなれるような錯覚を覚えさせられるし、みな安易な批判ばかりで溢れかえっている。もう少しどうにかならないのか、という情けない気にさせられる。