W杯日本代表、決勝トーナメント進出

 サッカーW杯で、ついに8年ぶり2回目の決勝トーナメント進出、16強入りを果たした。W杯事前にはふがいない試合が続いていただけに、誰もがここまでの結果を予想していなかっただろう。大学のサッカー部の学生ですらW杯開幕前には「いやあ今回はちょっと・・」と期待していなかったくらいであった。

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 日本代表とはいえプロであるから、求められるのは結果がすべての世界である。アマチュアのように「負けはしましたが、正々堂々と戦いました。試合を楽しみました」では通用する世界ではない。しかし事前にはあれだけ状態が悪かったのが、本戦に入って何が変わったのだろうか。


 プロなのだから個々の技術レベルはそれぞれ高いものがあるには違いないが、問題はそれがチームとして機能するかどうかである。いくら個人のレベルが高くても、ちょっとチームとしての歯車が狂えば、今回のフランスやイタリアのように、本命に挙げられていながら予選リーグで1勝も挙げられずに敗退ということもありうることを示す結果になった。日本はちょうどこの逆のケースになったといえるだろう。


 W杯前は散々だった。得点を挙げられずブーイングから岡田監督の辞任を求める要求まで起きた。W杯に行く前に、すでに敗れているかのような雰囲気でさえあった。そのせいもあったか、W杯に入ってから急遽、なりふり構わずに守り重視の布陣に変えた。攻める姿勢を期待する向きからは、当然批判もあった。ところがこれが当たったようだ。3戦して失点が2に押さえられた。守りで自信が取り戻されたのか、徐々に攻撃にも余裕ができたのか、決勝トーナメント行きを決めたデンマーク戦では、なんと3点も奪う結果となった。


 日本代表とはいうが、W杯の4年前から事実上スタートするのだから当初の招集メンバーと4年後の本番のメンバーはほとんど入れ替わってしまう。試合の度にメンバーが代わっているから、チームとしての方針やスタイルといったものが形成されにくいのではないかと、いつも不思議に思っている。「海外組」などは試合の前日くらいに代表チームにやっと合流するくらいだからなおさらではないかと思うのである。そしてだいたい個人としてレベルが高い海外組に頼った結果、チームとしての機能がしないまま、不本意な結果になるように見えた。


 今回もその繰り返しで、W杯前のような試合結果になったと思っていた。ところが事前の評価が最悪だったことが、逆によい意味で選手も監督も開き直りをした結果、チームが結束し機能しだしたといえるのではないか。具体的にはベテランや調子が上がらない選手は、実績に関係なくレギュラーから外したことがよい方向へ機能したようである。その最大の決断は中村俊輔を外したことだろう。今や名実ともにヒーローに祭り上げられている本田と中村は、互いにかみ合っていなかったようである。中村はかつての輝きが見られなくなってしまっているだけでなく、チームの中でも機能しなくなっていた。中村を外したらチームが機能しだしたのだとしたら、何とも皮肉な話ではある。デンマーク戦では2本のFKの成功で快勝したといえるが、そのFKにも代名詞だった中村が登場しなくなっているのである。フランスはチームの和が崩壊するという醜態をさらしてしまったが、「オレが、オレが」のベテラン選手を尊重しすぎた結果、監督さえもそれらの選手をコントロールできなくなってしまって、ピッチ外ですでに勝敗が決してしまっていたといえるのかもしれない。


 とはいえ個人的には、岡田監督にはあまり良い思いは持っていない。やはり12年前の「外れるのはカズ・・」が納得できなかったからである。ある意味、三浦カズは今の中村のような立場にいた。調子が上がらないから先発メンバーから外すにしろ、ベテランの存在も必要というのであれば、少なくともあの当時ではカズは必要な存在だったと思えるからである。監督は必要でなくても、ファンはもちろんだが、選手らにとっても結束するための精神的支柱だったと思えたからである。そしてその時の試合のことばかりでなく、日本サッカーの将来を考えたとき、あのときカズは必要だったと思えるからである。


 朝のテレビに、ラモスと釜本が出演していた。「釜本さんが監督だったら・・」というアナの振りに「ラモスのような選手を連れて行きたい」と言い、あのラモスがその言葉に恐縮するように「僕らの世代では釜本さんは神様ですから」と応えていた。こうして歴史や伝統は世代で受け継がれていくものだなという思いがした。もっと古くは、その釜本は日本サッカーの曙となった「ベルリンの奇跡」を起こした川本泰三に「ストライカーとしての精神的な薫陶を受けた」と言っている。カズがW杯に行けなかったことで、そうしたものが、あの時点で途切れたような気がしてならなかったのである。


 ともあれ、日本代表は少なくともあと1戦は決勝トーナメントで戦えることになった。歴史が繋がるような活躍とチームの結束を見せてほしいものである。