羽生が再び永世七冠に挑む

 羽生が前人未到の永世七冠に再び挑む。2年前にあと1勝と迫りながら、まさかの失速で獲得できなかった永世竜王の資格とそれによって実現する永世七冠が見えてきた。

羽生名人、竜王挑戦権を獲得…久保二冠破る(YOMIURI ONLINE)

 羽生の勝負師としての凄いところは、一度タイトル戦で敗れた相手にも徹底的なお返しをすることである。今年だけでも名人戦で三浦八段に4−0、棋聖戦では深浦王位に3−0、そして今回の竜王戦挑戦者決定戦で久保二冠に2−0のストレート勝ちである。三浦八段といえば、かつて羽生が七冠を達成したときに最初にそのタイトルの一角を崩した相手でもある。名人戦を含め、ここ最近は三浦八段は14連敗と全く羽生に勝てなくなっている。深浦王位はその王位を奪われた相手で、久保二冠は今年王将位を奪われた相手でもある。相手は絶好調時に羽生に挑み、時にタイトルを奪取することもあるのだが、羽生は必ず盛り返し、逆に相手を完膚なきまで叩きのめすようである。同世代の森内、佐藤相手にもそうだったが、今は後輩に対してのことが多くなった。


 さて竜王戦にはしばらく登場していないうちに、一回り以上も若い渡辺竜王が連覇を続け、一昨年にようやく羽生が挑戦権を得たときは、渡辺竜王もここまでかと思われたものだ。実際に羽生がいきなり3連勝で竜王奪取も確実と思われた。ところがここから何が起こったか、まさかの4連敗で奪取に失敗した。実に将棋のタイトル戦で3連勝4連敗の記録は史上初のことでもあった。勝った渡辺はもちろん凄いが、誰しもが羽生の変調を感じたはずである。


 それでも羽生は再び竜王挑戦権を握った。竜王戦は賞金額が大きいだけに、他の棋戦と比べても挑戦者になるまではトーナメントを勝ち続けなければならない、なかなか厳しいシステムである。渡辺竜王に対しても徹底的なお返しができるかである。また渡辺竜王も他の棋士との格の違いを見せつけて、羽生を返り討ちにできるかである。


 かつて大山十五名人は第一人者の条件を「先輩に勝ち、同輩に勝ち、後輩に勝つ」ことだと言った。羽生はこれまで先輩や同輩に勝ち続け多くの記録も達成してきたが、正にここにきて後輩に勝つことが最後の大記録が達成される絶対的条件となったようである。それが永世竜王とともに得られるすべてのタイトルの永世称号を達成した永世七冠の称号であり(永世七冠というタイトルがあるわけではない)、あと3期と迫っている大山十五名人の通算80期のタイトル獲得記録である。羽生ももう40歳になろうとしているだけに、タイトル獲得の記録的には最後のチャンスになってきているかもしれない。ぜひ、永世七冠は達成してほしいものだと思う。