電子書籍出版の「中抜き」

 電子書籍が普及することによって既存の出版社が最も恐れることは、紙の書籍が売れなくなること以上に、作家が出版に出版社や書店を頼らなくなることである。逆にネットで書籍を販売してきたAmazonは、電子書籍販売も独占できる可能性がある。iPadタブレットPCの動向とともに、電子書籍出版の流れがどうなるかは予断を許さない。

電子書籍ウォーズ:作家奪い合い、大手出版社も危機感(ITmedia)

 ITブームが起きたほぼ10年ほど前は、流通の「中抜き」ということが言われるようになった。卸業者は不要になり、生産者と消費者が直接ネットで結ばれる可能性が出てきたからである。すべてが淘汰されたわけではないが、だいぶ流通のしくみやスピードが変革されたことは確かである。そして現在は電子書籍の出版と販売でも「中抜き」が起ころうとしている。


 書籍の出版・流通に関しては、Amazonなどネット販売が大きくなったために、仕入れと陳列に限界がある小さな書店などは苦しい状態となった。特に書籍は安売りというわけにいかないし、立ち読みのメリットを除けば、どこで購入しようと品質は全く同じものだからである。また出版に関しては、新聞や雑誌などリアルタイム性の高い書籍ほどネット情報にとって代わられて、雑誌の休刊が相次ぐ結果となった。売れない書籍を出版はできないということで、安易なベストセラー本狙いばかりが多くなり、作家も出したい本がなかなか出せず、また読者の望む本の内容からも乖離しつつあるようにも見える。


 そこににわかに電子書籍ブームが到来しそうである。これまでは出版社の意向でしか、つまり部数が売れるか売れないかだけの価値基準だったものが、電子書籍だとその呪縛から解き放たれて、作家は好きな本を出版し、読者は好きな本をこれまでより広い範囲からそれも安価に入手できる可能性が出てきた。特に作家はこれまでのように出版社に頼る必要がなくなり、本の価格も自由に設定できるかもしれない。それは出版社からの印税にとらわれる必要がなくなるからである。電子書籍には「古本」という概念がなくなるが、また自費出版」という概念もなくなりそうである。大手出版社のマークがなければ、なんとなく非公式の本のようなイメージだったものが、そうした垣根はなくなりそうである。


 原理的には電子書籍をブログやWebページのように、誰でも自由に「出版」というか公開できるようになるわけだから、課金できるかどうかはともかくとして、電子書籍に関しては作家の資格としては平等になることになる。あとはそうした無名作家の本を、どこかでまとめて紹介、あるいは検索表示してくれる大手のサイトがあればいいことになる。それが今のままだと、AmazonGoogleなどに独占されかねないということになる。そこが既存の出版社や書店の恐れるところだろう。


 いずれにしろ、現在の紙の書籍に合わせた販売制度(再販制度)は、早晩行き詰まることになるだろう。紙の書籍の価格に合わせた電子書籍の価格というものが市場で受け入れられるとは思えないからである。事実上の電子書籍販売の「中抜き」が可能になる時代に、出版社はどう対応していくことになるのだろうか。