電子書籍はバブルか?

 この時期は今年の話題を振り返る記事やテレビ番組が多いが、あまり後ろを振り返っている余裕がないのがネットの世界ではある。経済をはじめ、いろいろなものが落ち込んでいる中で、電子書籍はバブルか?と言われる。そもそも「バブル」の定義そのものが長い不況のうちに、よく解らなくなっている。「バブル」といえば「崩壊」、だから電子書籍市場もいずれ崩壊するという予想なのだろうか。

電子書籍バブル?話題先行の1年,向こう数年は混戦模様か(ITmedia)

 電子書籍を考えるときに、ネット側からと既存の紙の書籍のジャンルからの見方があるだろう。新聞記事は紙の立場だけに、後者の見方だといえるだろう。つまり電子書籍は成功するかどうか、ビジネスモデルに乗るかどうかという立場である。一般の書籍だけではない。新聞や雑誌も同じ立場に立たされているからである。この立場では、AppleGoogleAmazonが成功するかどうかではなく、既存の出版社、書店、新聞社が電子書籍市場に参入して、今後生き残れるかどうかなのである。


 電子書籍市場のトリガーを引いたのは、明らかにiPadである。PCメーカーにとっては、今後電子書籍を読む目的でタブレットPCを購入する需要が増すとみて、そのシェアの争奪戦に入るだろう。これまでのPCやスマートフォンの目的に加えて、さらに幅が広がったわけである。書籍リーダーとしてのタブレットPCと関連するソフトウェア市場が熱を帯びることになる。


 一方、電子書籍のコンテンツを今後提供する側は、生き残りをかけて当分混乱をすることになるだろう。なぜならすでに出版が不況になっており、紙の書籍が売れない、新聞、雑誌も購読者数の落ち込みに歯止めがかからない状態に陥っているからである。そこに降って湧いたような電子書籍への流れである。これまで紙のコンテンツを提供してきた出版社、新聞社、書店などの業界は電子書籍に命運を賭けるしか選択の余地はなくなっている。CDが売れなくなり、曲のネット配信へと傾いた音楽業界と同じような立場に立たされている。そのとき、著作権などいかに既得権を維持しなから、紙から電子書籍へと移行できるかなのである。一歩間違えば、ただでさえ減少している紙の書籍の売上げをさらに失い、電子書籍でも失敗するという最悪の結果になりかねない。


 電子書籍では紙の書籍のような物理的な製造工程が不要なので、書籍単価はどうしても安くなる。いや安くしなければ電子書籍は売れないだろう。少なくとも紙の書籍の1/2から1/10くらいにはなるのではないか。そうしてそれだけ安いのであれば、何も有名出版社から出す必要もなくなる。部数を売ろうとすれば、プロモーションの方が大事になり、大手出版社や書店からだとどうしても優先順位が下がることになり、書籍を見つけてもらいにくくなる。しかしネット上では何も大手出版社や書店のサイトばかりでなく、いくらでも宣伝は可能である。むしろSNStwitterのような口コミの方が効果があるかもしれない。有名作家などが出版社に頼らなくなることも含めて、電子書籍の流通も多様化、分散化する可能性がある。既存の出版社や書店がスクラムを組んだところで、こうした分散化は避けられないだろう。誰でも手軽に電子書籍を出版できて販売することが可能になってきたのである。極端な話、1年に1冊しか売れない本でも電子書籍なら出版可能なのである。電子書籍なら絶版もないし、古本という概念もなくなる。自費出版という概念もあまりなくなるかもしれない。


 さて「バブル」といえば、ある時期儲けてから、そのビジネスモデルが崩壊することになるが、まだ電子書籍で誰も儲けてはいないのである。バブルどころか、しかし現実として危機感としてあるのは、GoogleAppleAmazonなどにその市場が独占されてしまうのではないかということだろう。特に紙の書籍は、現在は再販制度によって、かろうじて国内市場が守られているからである。しかし電子書籍にその再販制度は通用しないのである。公正取引委員会によれば、電子書籍は「モノ」ではなく「情報」だからだそうである。