暖かい人の情けは「伊達直人」

 菅直人よりは「伊達直人」か。施設の子ども達に「伊達直人」の名前でランドセルをひそかにプレゼントする人が、群馬に続き、小田原にも現れた。小さいことかもしれないが、なんとなく不況で寒々とした世の中に、暖かさを与える出来事だった。

伊達直人ランドセル再び!今度は小田原に(nikkansports.com)

 贈り主が誰かを詮索するような不粋なことはしない方がいいだろう。ただ「伊達直人」という名前にピンと来る人は、そうした年代の人だろう。少年時代にアニメの「タイガーマスク」で受けた感動を大人になっても忘れずにいることは、すばらしいことではある。また「タイガーマスク」が当時の子供に良い意味での影響を与えた名作だったことがうかがえる。


 孤児だった「伊達直人」は施設「ちびっこハウス」で育ったが、ある日動物園見学に行った際に虎を見ているときに、外国の悪役プロレスラー養成組織「虎の穴」に拉致同然にスカウトされ、そのまま姿を消してしまう。同級生だったルリ子だけはそのとき現場に居合わせていた。それから10数年後、「ちびっこハウス」はルリ子が切り盛りするようになっていたが、多額の借金から立退きを迫られていた。そこにルリ子の前にひょっこり現れたのが、行方不明になっていた「伊達直人」だった。直人はその借金を全額肩代わりをする。しかしその金は、悪役レスラー・タイガーマスクとして稼いだファイトマネーであり、「虎の穴」に上納しなければならない金だったのである。上納金を払わないタイガーマスクは「虎の穴」から裏切り者とされ、次々とプロレスの試合を借りた刺客を送り込まれるこまれることになる。つまり反則技でタイガーマスクを葬ろうとする殺し屋である。タイガーマスク自身ももともと反則技を駆使する悪役レスラーなのだが、「ちびっこハウス」の子供たちはタイガーマスクを正義の味方だと信じている。もちろん正体は知らない。「伊達直人」は子供たちの夢を壊さないために、反則技を封印し、正統派レスラーとして虎の穴の刺客を迎え撃つという困難に立ち向かうことになる。


 子供たちの前では、「伊達直人」は全く頼りにならない、ただのお金持ちのボンボンのお兄さんを演じるのである。プロレスラーのような屈強の体をしていれば気が付きそうなものだが、というのはアニメならではである。自分が記憶しているシーンではこんなものもあった。「ちびっこハウス」のみんなで海に出かけた。みんな水着になって泳ぐのだが、直人だけは服を着たまま砂浜に座っているだけである。「どうして泳がないの?」と聞かれると「実は泳げないんだ」と言い、子供たちに「情けないなあ」と笑われる。しかし直人の心中は「服を脱ぐと、体中の激闘の傷跡を見られてしまい、タイガーマスクの正体が知られてしまう」からだった。


 最も感動的なシーンは、死を覚悟して虎の穴の首領と最後の決戦に向かう日の前日の夜に、タイガーマスクがルリ子の前でだけマスクを脱ぎ正体を明かすときである。そのときルリ子は「知っていました」と言い、それまで正体を明かせなかった直人の苦しさを思いやり「直人さん、死なないで」涙ながらに抱きつく。プロレスの試合は子供向けには結構凄惨な描写も多かったが、単なるプロレス漫画ではない、心に響くストーリーだった記憶がある。


 アニメ「タイガーマスク」のオープニング主題歌といえば「白いマットのジャングルに・・」で始まる格好いいものだが、エンディングで流れる「みなし児のバラード」も、なかなかの名曲である。今回のランドセルの件で、ふとこの曲が思い出された。思わぬことで、「タイガーマスク」こと「伊達直人」がよみがえったものである。



アニメ「タイガーマスク」エンディング



アニメ「タイガーマスク」オープニング


ついでに、感動を与えたという点では共通する、アニメを超えたヒーローといわれた初代タイガーマスク佐山サトル)の衝撃的なデビュー戦。プロレス中継の全盛時代をもたらした。



初代タイガーマスク・デビュー戦(実況:古舘伊知郎