GoogleとMicrosoftの政府システム調達の争い

 OfficeのWeb化、オンライン化は数年前からブログの話題としてもさんざん取り上げてきたのだが、クラウド時代の進行とともに新しい段階に入ってきたようだ。それは政府調達のOfficeの選択である。

Google、政府システム調達めぐるMicrosoftとの戦いで..(ITmedia)

 政府、自治体をはじめとするお役所機関は、デスクトップ時代にはほとんどMicrosoft Officeを採用してきた。それは公文書の標準書式は何かということを規定してきたことでもある。国内でも、かつてはワープロ文書配布には一太郎とWord、データ配布にはLotus 1-2-3Excelが併用されていたこともあった。現在ではWordとExcelだけになってしまっている。会議やセミナーに行くと、自分も含め、みな判で押したようにPowerPointでプレゼンを行っている。あたかもMicrosoft Officeが国際標準のソフトウェアであるかのように思えてしまうものだった。


 しかしその後、配布文書にはPDF形式が普及するようになって初めて、文書にはソフトウェアが重要なのではなく、共通化された文書のファイル形式が重要であることに気づかされる。いくら文書を保存してあっても、現在のバージョンのOfficeソフトウェアが存在しなければデジタル文書は読み込めないことになる。ここにOpenOffice.orgなどの非Microsoft陣営のODF(OpenDocument Format)形式と、Microsoft陣営ののOOXML形式(Office Open XML Format)のISO標準をめぐっての対立が起こる。Webの普及とともにXML形式をベースにしている。Webアプリケーションによって文書編集を行えるのであれば、文書形式が共通であれば互いにデータ交換がネットを通して行えることになる。こうしたWebサービスとしてのオンラインOfficeはWeb2.0の時代にGoogle DocsZohoをはじめ多く誕生している。


 そしてサーバーだけでなく、データも丸ごとネットに置くクラウドの時代になってくると、もはやデスクトップのソフトウェアさえ不要になる可能性が出てきた。数多くのWebアプリケーションを実行する巨大なリソースと、莫大なストレージを持つクラウドとなると、GoogleAmazonMicrosoftなどの限られたベンダーだけが選択肢となってしまう。それは政府、自治体などにとっても同様である。そこで業務のカギとなるのがOfficeサービスの先行きである。クラウド時代には初めからすべてネットで処理可能とするGoogleと、既存のデスクトップのOfficeのユーザを維持しながら緩やかにOffice Web Appsへと移行させたいMicrosoftとの競合である。クラウドの技術や環境ばかりではない。デスクトップOfficeのソフトウェア・ライセンスが問題となる。既得ユーザのライセンスを維持しながらクラウドに移行したいMicrosoftは、何やら従来の電話番号の権利への課金を維持しながらIP電話に移行したい電話番号会社にも似ている。それがクラウド時代にも維持できるビジネスモデルなのかは、まだ決められないだろう。Googleは、はじめからサポートやネット広告をビジネスモデルにしているから、同じクラウドといっても内容は全く異なるといってもよいだろう。もう1つ卑近な例を挙げれば、受信料を徴収するNHKと無料の民放の違いみたいなものである。


 政府や自治体が、有料ライセンスを必要とするWebサービスを採用してしまえば民間も採用せざるを得なくなるから、その影響は大きい。少なくとも公文書はODF形式とOOXML形式の両方を採用するべきだろう。かつて一太郎とWordの両方の文書を提供していたようにである。


 Officeから離れた問題としては、システム上の見かけとはいえ、公文書を1民間企業に預けてしまっていいのかという心理的抵抗感である。MicrosoftGoogleは米国籍の企業だから米国はよいかもしれないが、他国にとっては米国に情報を支配されているようなものである。日本はまだしも、中国やロシアといった大国がMicrosoftGoogleに政府の情報を置くということは考えにくい。独自のクラウドを構築することになるのだろう。WikiLeaksではないが、クラウドは政府や国の情報のあり方も問うことにもなりそうである。