IBMの「Watson」がクイズ対決で人間に勝利

 チェスの世界チャンピオンに勝利したIBMの「ディープブルー」から15年近くたったが、今度はクイズ対決で「ワトソン」が人間に勝利したという。チェスでもプロに勝つには相当難しいと思われるが、あらゆるジャンルのクイズの答えを出すのは情報量からしてももっと難しいだろう。15年の月日は、人工知能にとってはそれなりに必要であっただろう。

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 メモリやディスク容量が飛躍的に増大したことを考えれば、クイズに必要な知識の記憶は容易になったようにも思えるが、事はそう単純ではない。チェスなどのボードゲームはルール上、可能性のある手をすべて挙げることはできるが、クイズ解決のための知識はもっと膨大であり、あいまいさも含む。そうして質問に答えるためには、情報をいかに組み合わせて必要な答えに到達するかということになる。


 それはアルゴリズムの問題というより、ボードゲームよりもはるかに難しい評価関数の問題であり、「機械学習」の問題になる。百科事典を記憶するなどはすでに当たり前、多くの問題と解答パターンも記憶しながら、新しい問題の解答への推論能力を獲得していくことになる。それは人間の脳の中でやっていることとも異なる。人間の脳はむしろ「忘れる」という能力により、情報の取捨選択をしながら、より正しい解答への推論を導けるようになっていると思えるからである。


 結果として、クイズのような短い問題と解答の形式ではコンピュータが圧勝することとなった。クイズというものは知識の中でも限定的なものであるから、チェスの次の1手よりは難しいとはいえ、まだコンピュータにとっては解答を出しやすい範疇のものだろう。それは答えがあることが、保証されているからである。短いクイズの質問内容の精査に集中すれば、コンピュータの膨大な記憶の中からは必ず答えを見つけ出すことができるはずだからである。


 とはいえ、かつての人工知能が限界に突き当たっていた「意味論」の解釈に近づき始めている。もちろん人間の脳のような解釈ではなく、膨大な記憶のジグソーパズルのピースの中から小さな組み合わせを見つける作業のようにも見える。ウルトラパワーによって「意味論」があるかのように模倣しているようにも見える。それでもパズルというゲームの中では、どうやら人間を超えたようである。チェスや将棋を指すコンピュータもそうだが、これが何に役に立つかということはあえて言うまい。人工知能(AI)という言葉が提唱されてから、ほぼ50年が過ぎただろうか。