青空文庫の収録作品が1万点を突破

 現在のような電子書籍のブームなどより、はるか前?から注目していたのは「青空文庫」の収録文庫数が1万点を突破したという。たいそうな電子図書館構想などよりも、草の根的であり実用的でもある文庫である。

青空文庫の収録作品が1万点を突破、..(INTERNET Watch) 
青空に積んだ公有作品1万(青空文庫)

 自分も若い頃には、明治時代の文豪の小説を文庫本でよく読んだものだ。ポケットにも入る大きさなので、毎日の電車の中でのちょっとした時間で糸のしおりを挟みながら読み進めるにはちょうどよいからである。特に夏目漱石はほとんど全部読んだ。ちゃんと読んでいないのは東大教授時代の「文学論」くらいなものだ。同じように寺田寅彦芥川龍之介なども多く読んだが、文庫でも手に入らないものがあり、歯がゆい思いをしたこともある。読みたいと欲するときに手に入らないと、往々にしてそれっきりになってしまう。


 そんな経験もあっただけに、この青空文庫の存在を知ったときにはすばらしい試みだと思えたものだ。そして著作権についてのあり方をネット時代には変わっていくべきだと思えるきっかけにもなった。なにしろ絶版になった本は、版権を持つ出版社などが復刻しない限り、手に入らなくなるからだ。だからといって、わざわざ古本を捜し歩くのも効率が悪い。ところが以前なかなか手に入れられなかった本の内容が、ボランティア的活動のおかげでネットで簡単に手に入るようになった。さすがに現在は若い頃のように熱心に読みたいとまでは思わないが、ある種の郷愁を感じる。


 青空文庫はきわめてシンプルでテキストだけの提供である。CSVデータのようなものだ。今の電子書籍を作成するツールなどと組み合わせれば、自分で好きな装丁にした電子書籍に作ることもできるだろう。思い入れのある本には、そういう作業も楽しいものかもしれない。商業主義にはとらわれない「文化遺産」としての価値はネットの中でも生き続けるだろう。