羽生が名人位を失う

 久しぶりに将棋の話題と思ったら、なんと羽生名人失冠である。いきなり3連敗していたからありうる話だったが、それでも以後3連勝、名人戦史上初の3連敗4連勝の奇跡の防衛かと期待したが、やはりそうたやすい相手ではなかったようだ。

森内九段、名人奪還 4期ぶり通算6期目 将棋名人戦(asahi.com)

 ズバリ敗因は、まず第七局は先後を決めるのが振り駒になるが、そこで後手になってしまったことだろう。もう1つは最近の対局過多の影響である。名人戦だけでなく、ここにきて棋聖戦の防衛戦が始まり、また王位戦プレーオフと挑戦者決定戦まであった。森内の方はこの時期名人戦に集中できたが、羽生は名人戦の後半になってこれらの他棋戦とのスケジュールが重なってきたのである。若い時の七冠時代ならともかく、さすがに40歳になっているので体力的にも疲れが出ても不思議ではない。どちらにせよ、将棋の実力は紙一重の差だけに、盤上以外の僅かな差が勝敗に繋がったのかもしれない。


 さて後手番になると、積極的に主導権を握ることが難しい。無理をすると序盤からのわずかの差でリードされたまま、勝敗に結びついてしまう恐れが十分にある。特に森内は「鉄板流」といわれるだけに、序盤のリードを保ったまま押し切る重厚な指し回しが得意な棋士である。それだけに後手番だったことがこの2人の間では、ハンデになりうる。


 さて後手番の羽生の戦法は横歩取り△8五飛だった。後手番で積極的に動ける戦法ではあるが、重厚なタイプの森内には通用しくい戦法という気がした。果たして森内の方も受けるどころか積極的に応戦、激しい勝負になった。森内の玉は最後まで居玉のまま、というのがそれを物語っている。羽生も積極的に動いたが、森内のポイントでの指し回しが目立った。その気になった場面をいくつか挙げておこう。


 羽生が4五歩と森内の飛車を抑えこみにかかったところで、なんと飛車取りに構わず▲4四角と出た。これで一気に羽生の玉が危うくなった。

 羽生が△2七銀から△3八銀成と迫ってきたところで▲3九銀引の受け。取られる駒をあえてソッポで取らせて相手の攻撃を遅らせる、覚えある手筋の1手ではあるが、こんな重要な局面で絵に描いたような1手を出されるようでは、羽生が苦しいところである。

 最終盤、羽生が飛車取りに再度銀を打ったが、さすがに届かない1手に見えた。あわよくば入玉をという意図もあったかもしれないが、ここから▲5四桂で一気に寄せに来られて、とうとう名人を手放すことになった。

 同期のライバル森内が相手だったとはいえ、羽生の再度の名人挑戦、奪回はあるか。それとも羽生時代に陰りが出てきた兆候なのだろうか。