記憶と忘却の「シナプス素子」を開発

 シナプスのように記憶もすれば忘却もする素子を、イオンと電極によって構成して開発したという。原理はニューラルネットだと思われるが、ハードウェアとして実現した点が目新しいのだろうか。昔少し勉強したので思い出してみよう。

脳のように記憶もすれば忘れもする「シナプス素子」開発(ITmedia)

 ニューラルネットニューロンの発火、抑制を+1、−1で表したとして、他のニューロンからの入力があるしきい値を超えると発火するような関係があるとすると、出力si (t) の時間変化は、しきい値を適当に調整すると、次のような関係がある。sgn(..)は符号関数である。和はsi と結合するすべてのニューロンについて取る。


si (t+1) = sgn ( Σ wij sj (t) )


または出力が連続的に変化するならば、滑らかな関数 f ( x ) に従って次のようになる。


si(t+1) = f ( Σ wij sj (t) )


 ニューロン間を繋ぐシナプスの結合は係数wijで決まるが、通常の場合は定数としている。もちろん時間とともに変化していくのだが、電気的なシナプスの信号とは時間スケールがはるかに大きいとみなす。したがってシナプス結合の変化は別の時間スケールでwij(τ)(τ >> t)のように考えなければならない。これは「シナプスの可塑性」を表す時間変化の方程式を別に与えなければならない。そして何度も信号を受け続けることによって、ゆっくりと変化するものであるだろう。


 今回のイオンと電極を用いるものによって、こうした時間遅れがどうやって実現できるかはわからないが、固定的なシナプス結合係数を持つ回路では、記憶容量や認識その他で限界が生じるはずで、それがシナプス結合を変化させることによって「忘却」効果をうまく使って、記憶の柔軟性を実現できるようになるかどうかである。