羽生が王位奪回、大山に並ぶタイトル80期

 羽生がまた将棋界の歴史を塗り替えようとしている。王位戦でタイトルを奪回し、これで通算タイトル獲得80期となり、大山十五世名人と並んだ。40歳でのタイ記録到達はもちろん最年少記録である。

羽生、王位奪取で史上1位の80期獲得(スポーツ報知)
羽生、80タイトル獲得!大山15世名人に並んだ!
「100期も夢ではない」羽生の強さの秘密(msn産経)

 時代によってタイトル数も異なるので単純な比較はできないものの、下記の獲得数と登場回数を見るだけでも、いかに歴代で断突であるかがわかる。将棋界でのトップ10であるA級八段まで、一時的には到達できても、タイトル戦に1度も登場することがなく終わる棋士もいることを考えれば、現在のように棋士の層が厚く、情報戦が進んでいる時代であることを考えても驚異的でさえある。


歴代将棋タイトル獲得回数

順位 棋士 獲得回数 登場回数
1 大山 康晴 80 112
1 羽生 善治 80 105
3 中原  誠 64 91
4 谷川 浩司 27 57
5 米長 邦雄 19 48
6 佐藤 康光 12 35



日本将棋連盟サイトより


 また、これまでの七大タイトルの内訳は竜王(6期)、名人(7期)、王位(13期)、王座(19期)、棋王(13期)、棋聖(10期)、王将(12期)となっている。歴史のある名人戦に限ってみれば、大山(18期)、中原(15期)に比べれば獲得数が少ない。直接的には、名人戦では同期の森内名人にやや弱いということに影響されているだろう。名人獲得数では森内(6期)、佐藤(2期)、丸山(2期)と分けあっているためである。この羽生世代の名人獲得数を羽生が全部独占していたら、羽生は名人在位年数でも大山を抜き去ることになっていただろう。タイトル数が多くなり棋戦への集中力が分散されたことにより、さすがにそうはならなかったようだ。


 また体力的なことも絡むのか、竜王戦名人戦のような持ち時間も多い2日制のタイトル戦には、どちらかといえば苦手とする傾向があるようだ。羽生の場合、1つのタイトル戦が終わると翌週にはもう相手を替えて、別のタイトル戦が始まり、遠征のために全国行脚を続けなければならない。他の棋士は年間1つか多くて2つくらいのタイトル戦に出場すればよい方で、相手の研究にも集中できる。羽生はもっとも多くの棋士にターゲットとして研究される棋士であり、そのマークを跳ね返していかなければならない。第一人者の宿命でもあろうが、若手も台頭してきて、今後どこまでタイトル獲得の記録を伸ばせるかである。


 時代が違うとはいえ、大山十五世名人の時代は三冠(名人、王将、十段)が長く、後に五冠となった。したがって年齢的には獲得回数を稼いだのは40歳を過ぎてからが多いはずである。羽生は40歳までに大山の数字的な記録に追いついたことになる。ここからどこまで数字を伸ばせるかである。


 ただ大山は別格としても、将棋界ではやはり40歳を過ぎると衰えのため、タイトル獲得は格段と回数が少なくなる。中原も40歳以後は、名人だけをかろうじて防衛していただけだった。羽生も昨秋渡辺相手に竜王奪取失敗、そして今春は森内相手に名人を失うなど、衰えが心配された。しかしその後も続く棋聖戦王位戦王座戦とタイトル戦の主役になり続けていることには変わりはない。今回は若手の広瀬に苦戦しながらも、なんとか羽生時代に踏みとどまった感じである。そしてすでに王座戦で難敵の渡辺を向かえており、初戦は落としている。


 もう少し、誰か人気面、実力面で羽生を楽にさせたらいいのにとも思うが、七冠達成からすでに15年過ぎても、まだまだ将棋界の一枚看板であり、最後は羽生が勝つことを期待している人も多いのも事実だろう。