ヒッグス粒子発見の可能性

 なぜ今なのか、また一般のメディアで、唐突に素粒子の難しい話を解説しようとしている。内容は記事だけからはよくわからない。それに可能性が高まったというだけで、まだ結論が出たというわけではなさそうである。

ヒッグス粒子,発見の可能性高まる 国際2グループ,来年に結論(MSN産経)
ヒッグス粒子 「質量の謎」解明へ一歩
「神の粒子」の兆候発見、宇宙の成り立ち解明に迫る..(CNN.co.jp)

 そもそも「ヒッグス粒子」と聞いても物理学の素粒子論を専攻してでもいない限り、ほとんど聞いたこともないはずである。これに関連する用語は「ワインバーグ=サラム理論」「自発的対称性の破れ」「相転移」などであろうか。ここではややいい加減な説明を試みよう。


 自然界に存在する4つの力は「強い相互作用」「電磁相互作用」「弱い相互作用」「重力相互作用」である。このうち「電磁相互作用」と「弱い相互作用」の統一理論とされるのがワインバーグ=サラム理論であり、そこに登場するのがヒッグス場、ヒッグス粒子であった。この理論そのものはもう50年近く前に確立された理論である。理論的には確立されたものであっても、加速器の実験などから検証するのは困難なもので現在に至っていたということだろう。


 「ヒッグス場の理論」から、どうやって粒子が「質量」を持つに至るかという話を理解するのは、一般的解説ではほぼ不可能だろう。もちろん専門的解説でも一般の人には何のことやらわからない。ただ素粒子が登場するところには必ず「場」の存在というものがある。この場はエネルギーを持ち、素粒子同士が相互作用するときには必ずそれを媒介する短命の「粒子」が存在する。実は場だ、粒子だといっているのは本質的に同じものであることは量子力学の示すところである。そして質量とエネルギーも同等であることは相対性理論の示すところである。


 そしてヒッグス粒子が質量を持つしくみが「自発的対称性の破れ」である。これはノーベル賞受賞した南部陽一郎による理論である。物理理論は本来「対称」のものである。しかし現実にはこれが破れる。それによって場の「相」が転移し、粒子に質量が現れる。光を表す電磁場の理論は対称なので、光の粒子は質量がゼロだった。光の粒子と異なり、質量を持つヒッグス粒子が見つかれば、ワインバーグ=サラム理論が正しかったことが実証され、「電磁相互作用」「弱い相互作用」は同等のもので質量を持つ粒子の現れ方が違うだけのものだということになる。宇宙の起源的にはそれらは同じものだったということになる。宇宙の起源はシンプルで対称な理論で表されるはずのもので、その対称性が自発的に破れたことによって多様な素粒子や場が現れるに至ったということになる。これは他の相互作用についても同様である。それに介在する粒子が見つかればよいことになる。その中でもヒッグス粒子は実験条件的に、なかなか発見が難しかったのだろう。


 それにしてもなぜ本当に結果が確定してからでなく、中間報告の段階で一般のマスコミにスクープのように出たのだろうか。理論的は50年前に終わっている話ともいえるにも拘わらずにである。