リクルートスーツは不要

 雇用が厳しい社会情勢下で、大学生の就職内定率も59.9%と過去2番目の低さである。そんな中、ソニーはユニークな新卒採用方針を公表している。「服装自由」「卒業後3年以内」などを提案している。もとより服装で内定が決まるわけはないので当たり前のような気もするが、この不況下でようやく「中身重視」が前面に出てきているのかもしれない。

リクルートスーツは不要、卒業後3年以内もOK─ソニーのユニークな..(ITmedia)
平成23年度「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」(厚生労働省)

 自分も学生時代、一番腑に落ちなかったものはリクルートスーツである。昨日までいい加減な格好をしていた同級生が突然ピシッとスーツを決めて現れたりすると、むしろ滑稽にさえ思えたものだ。スーツなんてサラリーマンの制服みたいなものだから、その予備軍としての意気込みを見せるということだろうかと思ったりした。実は自分はそういう風潮への反発もあってというか青臭さもあって、スーツを着ないで(ネクタイだけはしたが)面接を受けて内定が取れたことがあった。そのときの最終の社長面接でのやりとりを覚えている。

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面接官「変わった服装をされていますね」
自分「普段のままの自分を見てもらった方がよいと思いまして」
面接官「では会社へのロイヤリティについては、どう考えますか」
自分「ロイヤリティとはどういう意味でしょうか・・」
面接官「まあ忠誠心というか・・」
自分「それは仕事を達成したときに、初めて感じられるものではないかと思います」
社長「人間関係は良好とのことだが、女性との人間関係はどうかね」
自分「そうですね、ときどき現れては、またすぐに居なくなります」
面接官「(爆笑)」
社長「ま、いっか」

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 最後の社長のやや投げやりな「ま、いっか」で内定を取れることを確信したが、結局その会社へは行かなかった。有名企業ではあったから、もし行っていたらまた自分の人生の流れも違ったものになっていたかもしれないと思う反面、ややひねくれた性格だけに大差はなかったかもしれないとも思う。スーツを着ないで面接に行ったことを話したら、ある女性からたしなめられた。「会社に入ってやる、ではなくて、会社に入れていただくということなのだから、それなりの身なりで行った方がよい」と。それは一理あると思って、やや反省した。


 リクルートスーツばかりではなく、判で押したような面接での想定問答とか、むしろ逆効果ではないかとさえ思える。最低限の礼儀は当然としても、やはり中身で勝負できるようでなければならないだろう。特に技術系の職ではそうだろう。


 スーツ姿の捉え方は職業やその世界によっても大きく異なる。ノーベル賞物理学者ファインマンは、普段は研究でも講義の場でもスーツを着なかったが、ノーベル賞授賞式のときだけモーニングを着た。その足で欧州の大学の講演に行ったが、モーニング姿のファインマンが講演を始めようとすると学生達が「スーツを着た人の言うことなんか信用できるか」と足を踏みならしてブーイングをしたという。ファインマンは慌ててネクタイと上着を脱いで講演を行ったという逸話がある。


 歳をとってくれば何ということでもないのだが、まさにTPOであろう。あるいは「郷に入りては郷に従え」ということで、自分のポリシー云々とは関係のない次元の話ではある。そんなところでポリシーを貫こうとする人間には、むしろ偏狭さを感じる。少なくとも仕事の話で身なりで判断することはありえないし、スーツを着ていればよく思われるとか、ラフスタイルだと実力派のように見られるということではないのである。