松井、レイズとマイナー契約

 ようやく松井の今シーズンの所属チームを決まった。ヤンキース時代のライバルチームのレイズである。現在アリーグ東地区の首位でもある。しかし松井の現状はマイナー契約である。すでにメジャーが開幕してから1ヶ月余り経過していてメジャー選手枠が確定してしまっているから当然とはいえ、松井にとってはかつて経験したこともない条件である。

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 入団会見の様子を見たが、会見そのものも押しかける日本の報道陣のために特別に設定したにすぎないのだろう。恒例の新しいユニフォームを着せるパフォーマンスもなく、松井の背番号がどうなるのかさえもわからない。松井自身の表情もかつてなく厳しいもので、「ただ野球がしたい」という決意を語った。メジャーに上がらなければ「優勝に貢献したい」とは言えない立場である。


 メジャーとマイナーでは待遇、環境面では雲泥の差があることはよく知られている。メジャーに挑戦した多くの日本人選手がマイナーに降格したりすると翌年のうちには日本の球団に戻りたがるのも、この過酷な環境と無縁ではない。それにしても松井が怪我による調整以外でマイナーに居ること自体考えられないことである。日本に帰ってくればどの球団でも大歓迎だろうが、それをよしとしない松井には大きな決意があるのだろう。


 ともあれ、当面の焦点はメジャー昇格のチャンスはあるかどうかに移ってきた。レイズにとっては現在東地区首位とはいえ、先の長いシーズンを乗り切るためには厚い選手層を確保しておく必要があるのだろう。何しろ後半戦になると、優勝の可能性のなくなった下位チームの主力級をトレードで引き抜くことさえある世界である。ほとんどタダ同然で、実績のある松井を主力が怪我などで欠けたときの「保険」としてマイナーに置いておくという見方もできるだろう。若手でこれから這い上がろうという選手ならともかく、一度は栄光も手にした松井がこの逆境をどう乗り越えていくかは、ある意味見所でもある。参考になるのは野茂の晩年である。メジャーにいても突如解雇されたり、またマイナーから這い上がるということを繰り返した。その精神力たるや凄いものだったが、本人からすれば「投げるのが好きだから」というものだった。松井の「ただ野球がしたい」もそれに通じるものかもしれない。


 多くの人が松井の入団にエールを送っているが、高橋尚成の「相当の覚悟を持ってアメリカに乗り込んだのだと感じる」という話は印象的である。松井がメジャー挑戦を表明した時の「裏切り者と言われるかもしれないが」という言葉が思い出される。顔を合わせれば馬鹿を言い合う先輩・後輩の仲だが、やはりよく見ているものだなと思う。上原なども同様だろう。またかつての同僚で、似たような境遇でなかなか契約が決まらなかったデーモンも松井にエールを送る。デーモンも昨季はそのレイズに所属していた。インディアンスと4月になって、やはりマイナー契約したがこちらはチームが不調のため、マイナーで試合をすることなく急遽メジャー昇格を果たしている。松井の場合、現在レイズが好調なだけに、そう簡単にはメジャー昇格のチャンスが巡ってこないかもしれない。


 それでもである。これまで松井は「奇跡的」なことを成し遂げてきた。ヤンキースタジアムデビュー戦での満塁本塁打に始まり、ワールドシリーズMVPの獲得など、ここぞというときに何事か成し遂げる、そういう星の下に生まれてきていると思えるだけに、今回も逆境を乗り越えた活躍のストーリーがあると期待している。