出版社の著作隣接権とは

 電子書籍の登場から出版の不況の世の中にあって、デジタル時代に対応した出版社などに著作権に準じる「著作隣接権」なるものを与える法制定の議論が進んでいるのだそうだ。「著作隣接権」という言葉の響きそのものからして、あまり良い印象は持てない気がする。

出版社の著作隣接権-「デジタル時代に対応」「合理的な理由ない」(ITmedia)

 法律の解釈はよくわからないが、著作権はあくまで著者にあるものだが、その編集に関わった出版社にもそれに準じる権利「著作隣接権」を与えようというもののようだ。既存の出版権と複製権と何が違うのか、デジタルの出版と複製には対応しきれない部分があるのだろう。やたらデジタルでの海賊版の流通の阻止を意図しているようだが、海賊版を取り締まる目的という発想そのものが古臭く、頭が固いような印象を受けてしまう。何やら音楽著作権の話に似て、CDやDVDが売れなくなったのは違法コピーのせいだから、これを取り締まるような法律を作れと圧力をかけているようなものである。


 しかし紙の書籍にしろ、音楽のパッケージにしろ売れなくなったのは、流通の方法がネットによる通信の方が便利になってきたからである。書籍やパッケージが丸々違法コピーされたものが流通しているからではなく(そんな国もあるだろうが)、記事単位や曲単位で入手する方が効率がよいしコストもかからないためである。仮にこれらを規制して、あくまでパッケージを買えというのは時代に逆行している。


 出版社なりの既得権のようなものを無理にデジタル分野にまで広げようとすれば、どういうことになるか。おそらく著作者の方が逃げ出していき、デジタル出版物は自ら出版するようになるだろう。Amazon電子書籍自費出版サービスをはじめとして、出版社を通さずコストがかからないデジタル出版サービスは今後充実していくことが予想される。有名著者であれば特別な宣伝はしなくても、ネットの中で評判が評判を呼び、流通させることが可能になるだろう。またタブレットなり電子書籍リーダーが普及してあるので、一般読者は書店で入手できないとか絶版になっているなどの心配をすることなく、自由に電子書籍は居ながらにして入手できる。どうしても紙で読みたい人はプリントアウトするなり装丁付きのプリントサービスを利用すればよいだけである。


 デジタル出版に関しては、むしろこれまで出版社が決めていた価格を著作者が任意に設定できるようにすることではないだろうか。日本の再販制度はあくまで紙の書籍に対するものであって出版社や書店の権利を守るものでしかなかったと思えるからである。