第2回電王戦第1局はプロ棋士の勝利

 コンピュータ将棋が現役プロ棋士に挑む第2回電王戦は開催決定からいろいろな予想はあったようだが、その対戦が今日から始まった。毎週土曜日に1局ずつ5番勝負が行われる。その第1局で新鋭の阿部四段がコンピュータ将棋「習甦(しゅうそ)」に見事勝利した。

プロ棋士、コンピューターに勝つ 将棋電王戦第1局(朝日新聞)
電王戦:将棋プロ棋士がコンピューターソフトに先勝(毎日jp)

例のごとく、自分なりの独断の勝負のポイントを挙げてみよう。戦型は角換わり腰掛け銀となったが、先手番の阿部四段は、あえて自分から角交換をする「先手一手損」を選択する。これで先手番の価値がなくなり、なおかつ玉方の9筋の端歩を早いうちに突き越したことにより、さらに攻めの体制は手が遅れることになる。本来「一手損角換わり」は後手が選択する戦型なのだが、あえて先手番に持ち込んで自陣の手をわざと遅らせる戦術は、近年の角換わり戦法ならではである。この微妙なズレというか「遅延戦術」をコンピュータ将棋側がどれだけ捉えることができるのだろうか。この遅延は現実的には端歩の突き越しの価値の大きさとして、終盤にモノを言うことになった。


 先手が手を遅らせた結果、後手だったはずの「習甦」側から仕掛けることになった。角換わり戦法は通常は先手から仕掛けて後手が受けに回る形になるのだが、ここは後手が攻めを催促されたことになるのだろうか。しかし最近のコンピュータ将棋は機と見るや積極的に攻めてくる。その仕掛けが第1図で、後手の攻めがハマれば一気に潰されかねない怖さを持っている。



後手は飛車先の歩を切り、なおかつ横歩を取って飛車を犠牲にしてでもの攻撃の構えだが、継続の△44角に対して、阿部四段はすぐに飛車を取るのではなく▲88角の強防の一手である(第2図)



プロ側から見れば後手は無理攻めのように見えたらしいが、コンピュータ側は何か攻めを続けるうまい順を読んでいるのかと思われた。△44角と△69銀から△77銀の筋が有力と思われた。阿部四段は駒得で飛車角は持つものの、歩切れで後手の攻めを受けきれるかというところであった。そこで△44角に対して▲98玉とかわした(第3図)。意識したわけではないだろうが、形はあの「米長玉」である。ここにきて端歩を突き越しているために入玉を見据えた寄りにくい形になっている。細かいアヤはまだあるものの、プロにとっては事実上これで先手の受け切り勝ちが決まったように見えた。



 奇しくも今日は昨年末に亡くなった米長前会長の百ヶ日法要の日だったそうである。その意味でも▲98玉の一手が決め手になったとすれば、最高の供養になったのではないか。コンピュータ将棋側にとっては第1局での敗戦は、ますます開発のための刺激になるのではないだろうか。