電王戦第3局コンピュータ将棋がプロ棋士に連勝

 1勝1敗で迎えた電王戦第3局は、船江恒平五段と昨年の選手権3位の「ツツカナ」の対戦となり、184手もの激闘の末ツツカナが勝利し、これでコンピュータ将棋側の現役プロ棋士との対戦成績を2勝1敗とした。

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電王戦:将棋プロ棋士がコンピューターに連敗…第3局(毎日jp)

 第2局は都合でリアルタイムで見ることができなかったが、今回は昼過ぎからニコ生を終局までついつい観戦してしまった。それだけ目が離せない白熱した一戦だった。ツツカナの注文で角換わりの急戦の力将棋になったが、中盤以降がっぷり四つのねじり合いになったように見えた。その結果、コンピュータ将棋の評価値もクルクル変わり、途中どちらが優勢か判断が付きかねる局面が長く続いた。船江五段は根負けせずに最後までプロの底力を見せたように思う。ツツカナは人間同士ならもうギブアップしそうな局面からでも盛り返し、まるで「ターミネーター」のようだと称されていたが、まさにそうした展開だった。


 見所は多くあって挙げきれないが、人間側から見てはっとさせられた手を挙げてみる。まず船江五段が敵陣に飛車を下ろして、ツツカナ側が△22金打という粘りを見せて△99角成と馬を作ったところで▲43角成と迫った瞬間に誰も予想できなかった△55香の切り返しであった。それまで船江五段が優勢と思われていた形勢がここから微妙に揺らぎだしたようである。

そして詰むや詰まざるやの緊迫した場面になってきたと思われた瞬間、なんと75にいた銀をタダ捨ての△66銀という予想外の1手。まるで羽生マジックを見るかのようであった。この1手だけでツツカナが優勢になるわけではないにしろ、この場面では最善手だと判断したのだろう。

その後船江五段も地力を見せつけ、あわや完封という局面まで持ち込んだように思われたのだが、ツツカナはなお粘りを見せ、船江五段が僅かに緩んだかと思われる手から徐々に形勢を盛り返していく。船江五段も自陣を鉄壁にし、▲17桂、▲25桂打といよいよ1筋の後手玉に狙いを定め決めにかかろうとする。そして▲26香と歩を払って走った瞬間、22にいた金を△32金と寄る絶妙の受けを見せる。

 この辺はかつての大山十五世名人の終盤を彷彿させるような受けである。2筋をガチガチに固めただけでなく、柔軟な受けの1手で後手玉は寄りにくくなり、先手の攻め駒が逆に窮屈になったように見えた。そして遊び駒だった81桂にいつのまにか手順に△85桂〜△77桂成と拠点を築く手が回るに至り、その後も際どい攻防は続いたが、僅差であればあるほど終盤はコンピュータ将棋の正確さが際立ってきたようである。詰将棋も得意な船江五段であったが、ついに詰めを実現する局面には至らず無念の投了となった。


 緊迫した戦いが続いたが、なんとなくミスの多い人間同士よりも、人間対コンピュータの方が名局が生まれるのではないかと感じさせる一戦であった。人間もコンピュータという新たな強敵を迎えたことによって、より進化することもできるかもしれない。それだけ将棋も奥深いということだろうか。