日本の貧困は深刻

 日本は不況を通り越して、貧困問題を抱えるようになっていたようだ。これまであまり明らかにされていなかったOECDの03年の報告の貧困率14.9%と、今回06年のデータとして政府が15.7%としている。09年はもっと悪化しているだろう。

勤労世帯に広がる貧困の実態(nikkeiBPnet)
貧困率:日本15.7% 先進国で際立つ高水準(毎日jp)

 長引いた不況のせいで、リストラ、就職難が貧困率を上げてきたであろうことは推測できるが、実は景気の良かった1980年代からすでに貧困率が上がり始めてきたのだという。つまりバブル全盛の頃から社会に格差が現れだし、次第にその格差が拡大してきたのだろう。不況に入り込んだ1990年代には、モノの買い控えなどが増えたものの、まだ社会全体としては経済的余裕はあると思えていた。まだ日本は豊かな国であるという「神話」が通用していたのだろう。


 年金問題に見られるように、現在高齢者になっている世代は、終身雇用だった人が多く、不意に職を失ってもまだ退職金、年金受給は可能だった。しかし不況下しか知らない世代にとっては、全く将来が見えない状況となっている。その中でも思うような仕事に就けず、働けど働けど貧しいままのワーキングプアも生じる状況となっている。フリーターとか派遣社員の増加の世相と何かごちゃ混ぜにされ、あるいは実態に目を向けないようにさせられたのか、確実に貧困な層が増えることになっていたわけである。


 「失われた10年」と言われた不況期後、外国資本による株価上昇の見せかけの景気回復の時期もあったが、もともとそれは「雇用なき景気回復」であるだろうと思われた。不況時にすでに国内からは下請けになるような工場も、人件費が安いアジアなどに移転してしまい、国内の産業では職種が限られてきていたからである。昔は「仕事がうまくいかなければ、親の仕事の後を継ぐ」などということを冗談でも安易に言えたが、不況後はその親の仕事も廃業に追い込まれるか、海外へ移転してしまっていて、継ぐ職業もなくなっていたのである。


 笑えない話に、父親がリストラされるのと新卒の息子の内定取り消しが同時にあり、頼れるのは祖母の年金だけというものがあった。その祖母も亡くなってしまえば、その年金すらなくなる。こうした悪い状況が重なった世帯から貧困が広がってきている。不況期にまともな就職先が得られなかったか、その職場が不況でなくなったりした人々が増えて、特に若い世代がそこから脱出できないまま年齢だけ進むことになり、それで貧困率が上がることになる。今は社会人が増えるたびに貧困層も新たに生み出されるサイクルになっているのではないだろうか。


 格差社会が生み出されるのは、資本主義の原理ともいえることかもしれず、米国や日本はそのステージが進んでしまっているともいえるかもしれない。それでも日本人は辛抱強いし教育もある。何かのきっかけから、この状況から脱出できる機会もあるかもしれない。政権交代が起こったのは、こうした社会の鬱積が現われた結果かもしれない。ただ、長いこと国民一流、政治家三流と言われてきたお金持ちの政治家には、どれだけこうした認識があるかである。選挙には行かないある人が言っていた。「政治家なんて金はあるんだろうから、全部無給のボランティアでやればいいじゃばいか」と。