電王戦第5局三浦八段がGPS将棋に敗れる

 プロ棋士側の1勝2敗1引き分けで迎えた電王戦第5局はA級棋士三浦弘行八段と昨年度世界コンピュータ将棋選手権優勝の東大駒場GPS将棋の頂上決戦だった。結果はGPS将棋の完勝に近いといってもよく、結果としてプロ側1勝3敗1引き分けで終わった。これでコンピュータ将棋が事実上プロ棋士並みかそれを超えた可能性があるとみてよいのだろうか。

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 三浦八段vsGPS将棋は序盤は矢倉戦の定跡形から始まった。後手番のGPS将棋だが、積極的に仕掛けてくる。三浦八段としてはそれを無理攻めとして咎めて抑えこんで有利に導きたい意図だったようだ。三浦八段はGPS将棋の攻めの銀に対して守りの銀をガツンとぶつける(第1図)。普通の矢倉戦ではあまり見たことのない手であるが、対コンピュータ将棋を意識した手だったのだろうか。

局面は三浦八段が玉頭に守りの金銀の駒を盛り上げ、GPS将棋の攻めの飛車角を押さえこもうとするのだが、持駒を金を直接角の頭に打ち付ける(第2図)。結果的にはこれが伸びすぎのような形で、もう少し歩を垂らすなど遠巻きに徐々に押さえ込みを図った方がよかったのかもしれない。しかしこのへんでは三浦八段の優勢かと思われていた。

三浦八段に押さえ込まれて攻めが切れるかと思いきや、GPS将棋はうまく攻めを繋いで三浦八段の玉はなかなか安泰にはならず、また反撃のチャンスも回ってこない。局面の右半分が序盤から全く動いていないことからもそれがわかる。GPS将棋の矢倉囲いも全く手付かずである。GPS将棋は押さえ込まれそうな飛車角を問題にせず、空白の△6六金と急所に入れる。三浦八段は入玉も含みに持たせた▲8七玉と上がるが、その直後のタイミングで△8八歩と打ち込む(第3図)。これで三浦八段の玉はGPS将棋の攻めを解き切れないことになった。ここでできたと金は桂香を取って最後に三浦玉の死命を制することになる。その後三浦八段はGPS将棋の飛車角は取るものの、玉の包囲網を断ち切ることはできずに投了に追い込まれてしまった。とりたてて三浦八段側に失着があったわけでもなく、あらためてGPS将棋強しの印象を与えて決戦は終わった。

 団体戦勝敗は明らかなコンピュータ将棋の勝ち越しに終わり、この結果をもって、コンピュータが将棋でプロ棋士あるいは人間を超えたという歴史的出来事になるのだろうか。15年以上前にチェスの世界チャンピオンがコンピュータチェスのIBMディープブルーに敗れたときのような印象を、世間的には与えることになるかもしれない。いやまだ、羽生さんがいる、渡辺竜王がいる、森内名人がいるなどという人もいるだろうが、それは人間の人情の問題に過ぎない。それを言うなら三浦八段はかつて羽生さんが全盛期だった羽生七冠のときに、その七冠の一角を初めて崩した棋士なのだから(ちなみに最近も羽生さんに勝っている)、それほど大きな実力差があるわけではない。また統計的にいうなら、何局も戦ってその勝率で上回ったとき、初めて超えたといえるものかもしれない。しかしそのためだけにプロ棋士側はたとえば百番指しとかするのは現実的ではないだろう。なのでこれからは超えた、超えないの議論は次第にあいまいになっていくような気がする。ただプロ棋士がソフトに敗れても特別なことではない、という認識にはなっていくだろう。あとは人間vsコンピュータという構図のイベントとしての関心がいつまで続くかということだろうか。