Microsoftの業績の落ち込み

 ある程度は予想されたものの、Microsoftの業績が急激に落ち込んでいる。百年に1度という金融危機の影響も避けられなかっただろうが、Microsoftとしては30年の歴史の中で最悪だそうである。いろいろな要因は重なっているのだろうが、どういう流れになっているのか。

Microsoft、Windowsの売り上げ3割減で3期連続の減益(ITmedia)
マイクロソフト、第4四半期決算を発表--PCおよびサーバ販売が低迷(CNET Japan)

 まず、ビル・ゲイツが引退してからというものの業績は落ち続けている。アップルのスティーブ・ジョブズにも言えることだが、カリスマ不在になったことが、不振の遠因にもなっているかもしれない。


 次に景気後退はどの産業でも影響を受けており、広告の減少、スポンサーの撤退、株価下落などもあろうが、IT分野は金融や製造業に比べれば、まだ影響は小さい方かもしれない。Microsoftだけが大きく影響を受けているとも考えにくい。

 直接的に考えられるのは、VistaやOffice 2007の買い控え、およびそれらの影響によるPCおよびソフトウェア全般の売れ行きの不振ということである。Vistaの不評と金融危機の時期がちょうど一致してしまったのである。その中で唯一、新しい市場のように伸びたのはネットブックだったが、これにはXPを格安で入れたのであまり利益には繋がっていないだろう。


 そしてネットサービス全体の立ち遅れである。巨大な投資はし続けているが、まだ利益として回収するには至っていないことである。Googleを追うような立場になっているが、もともとGoogleがうまく独占しているからではなく、Microsoftが全面的にはまだ舵を切れない、ネットサービスへのビジネスモデルの転換が迫られるからだろう。ライセンスというソフトウェアの箱売りからネットサービスの課金へとは、容易に転換はできない。新聞が紙売りをやめて、Web版だけにできないのと似たようなところがある。


 ライセンス主義とネットを席巻するオープンソースの世界とでは、Microsoftがどう整合性をつけようとしても、相容れない部分は解消できない。オープンソースに慣れてしまったユーザからすれば、ライセンスにお金を払うことに対して躊躇があるからである。オープンソースという選択肢もある以上、それでもわざわざ有償のソフトウェアを入れるには、予算を請求する上でそれなりの説得力のある「理由」が必要になるからである。


 一昔前であれば、Microsoftが独占だったから、好むと好まざるに拘わらず、それしか選択肢がなかったから、ある意味、話は簡単だった。WindowsとOfficeはクライアント環境ではデフォルトだったから、全体予算ではこれらの分を差し引いてから、サーバー環境にどれだけ投資できるかになったものだ。自分の経験では、次第にWindowsサーバーは選択肢から外していった。Windowsサーバーのライセンスが加わると、さらにクライアントの台数分だけ経費がかかることになるからである。そしてこの分は、予算請求の上で説明するのは大変難しい。


 今はどうなっているのか知らないが、たとえばWindowsサーバーのWebサーバーであるIISではなく、Windows版のApacheを入れてWindowsネットワークの中でWebサーバーとして稼動させると、クライアントの同時接続数は、Microsoftの見解では「10」までに制限されるのだそうである。いったいその「10」という数は、どういう根拠で導き出されるものかと馬鹿馬鹿しくなった記憶がある。そしてそのような不毛な解釈や説明に労力をかけるよりも、当然のごとく次第に安定してきたLinuxをPCサーバーとして、ネットワークの中では運用するようになっていったのである。


 それでも当時からMicrosoftは、サーバーの売り上げでもやはりWindowsサーバーが1位であると主張していた。それは当然で、Red Hatのような有償版のLinuxもあるとはいえ、それよりはるかに多くのフリー版のLinuxサーバーがネット上に稼動しているからである。その実体の数は売り上げの数字には決して表れてこないものだろう。そしてこのLinuxサーバーをベースにした多くのWebサービスが勃興していった。Googleの巨大なサーバー群からして、その実体はLinuxサーバー群である。そしてこのWebサービスが従来のデスクトップ・アプリケーションの領域を置き換えようとしているのが、Web2.0でありクラウド化への流れとなっている。


 Microsoftとしても当然、この流れの中でのトップに立ちたい。しかしそのためにはネット時代には、すでに過去の遺物となりつつある既存の「ソフトウェア利用ライセンス」というビジネスモデルを捨て去り、新しいビジネスモデルを確立できなければならない立場となっている。Office 2010とOffice Web Applicationsの並立は、まさにその狭間にいる状態であるといえるだろう。このような状態にある大手のソフトウェアベンダーとしては、ほとんどMicrosoftAdobeだけになったようにも思える。Adobeはデザイン系では独占状態なので、まだ緩やかにWebサービスに移行できるだろうが、Microsoftは規模とユーザ数の多さからしても、仮にWindows 7の発売で一時的に業績は回復したとしても、待ったなしの状態となってきていると思われる。