あから2010が清水女流王将に勝利

 注目の将棋ソフトvsプロ棋士対決の第1弾の「あから2010」vs清水市代女流王将の一戦が行われ、あから2010が見事に勝利した。勝敗はある程度予想はされていたが、クラスターマシンと4つの異なるソフトの「合議制」によるあから2010の将棋の内容はどうだったのか。リアルタイム中継を見るには有料登録をしなければならないし、さりとて会場の東大まで直接出かける余裕もない(もし行っていたら20年ぶりくらいになるか)。休日でも昼過ぎくらいまでは仕事があったので、結局twitter2ちゃんねるから断片的に情報を得ていた。2ちゃんねるの当該スレッドが、全体のスレッドランキングのトップに躍り出ていたことには少々驚いた。休日とはいえ、それだけ世間の関心も高かったということだろうか。

将棋ソフトが初勝利 清水市代・女流王将を下す(msn産経)
コンピュータ将棋が女流王将に勝利(PC Watch)

 さて例によって、自分の気になった局面と1手をいくつか挙げてみる。後手になった「あから2010」は意外にも「角交換振り飛車」という最近プロ間でも流行の戦法を採用している。かなり最近の棋譜も「学習」済であるとみえる。角を持ち合うので急戦になりやすいと思われるが、清水女流が穴熊を目指す▲9八香と上がる。だが、まだ金銀が出遅れ気味なところを「あから2010」はとらえる。


 

それは△4四角から玉に狙いを付けたことである。▲7七角と1度は合わせられても、再度△4四角と筋に入る。実にこの角が結局最後まで生きて、先手玉の死命を制することになる。


この角を追い払おうと▲4六歩〜▲4五歩とするが、あっさり桂損の△同桂として、その桂を両金取りに▲5三桂打とされ、この時点では駒得の清水女流が有望なのではないかと思われた。なにしろ以下△5一金左▲6一桂成△同金の瞬間は、あから2010は桂損どころか、中盤で丸々金損になっているのである。


ところが金損よりも、後手に手順に桂馬が入ると△8五桂が入り先手玉に迫ることができて後手有利というのが、あから2010の読み筋だったようだ。むしろ▲5三桂打は誘いの罠だったのではないかとさえ思える。おそるべし、あから2010である。そうして先手は得したはずの金で角のニラミを受けざるをえなくなったが、△7四桂、△8五桂といつのまにかその金が攻められている。


劣勢に回った清水女流は▲8六桂と美濃囲いの弱点に狙いを付ける。金や銀が持ち駒に入れば▲7四桂打のつなぎ桂から、後手玉は頓死する可能性もある嫌な手である。人間同士ならば、ここは相手に金っ気のある駒を渡さないように慎重に指したいところである。ところがなんと、あから2010はここで▲6九金とセオリー破りの一見すると俗手を放つ。これが最短の寄せになるという読みのようである。人間ならば恐れる▲7四桂打の筋では、寄らないことを読み切っていたようだ。


そして最後のトドメが△8五銀。▲7四桂打からの寄せを防いだようだがそうではなく、むしろ△8六銀とむしり取って先手が詰み形になるのである。終盤に入ったあたりからは、正確かつ最短の寄せを実現させていたようである。


 機をみて積極的に仕掛けていくし、中盤のいいタイミングで△5二金打と美濃囲いを補強する手も出すし、全体として攻守にバランスの取れた指し方をするように見えた。これも攻めに強いのと受けに強いソフトが合議制でうまく働いている効果といえるのだろうか。ある局面で攻めの手か受けの手か、合議でソフト同士の意見が割れた実際の局面で、どのように次の1手を決定していたのか、研究結果の公表を期待したいものである。


(追記 10.12) 情報処理学会サイトに棋譜と合議制ログが公開されました。
http://www.ipsj.or.jp/50anv/shogi/20101012-2.html