オープンソースの1年

 今年はWeb2.0の掛け声が広がり、ネット関連のソフトウェアはオープンソースが浸透していった年だったようだ。Webアプリはもちろんだが、ベースになるOSについてだけみてもオープンソース路線が着実に根付いたと言えるだろう。一方、時代に付いていけずに消え去るものも存在する。技術的なことより、コンセプトが間違っていたために、そうなる運命だったとも言えるものもある。

涙をぬぐって歩を進めるオープンソース (ITmedia)
SCOが上場廃止に

 昨年末にIBM OS/2が完全に活動を終了していたのは知らなかった。というより、全く関心がなくて情報もほとんどなくなっていたのだから当然ではある。しかし、もともと全く関心がなかったのではなくて、OS/2が出てきた頃の15年前くらいに、組織にOS/2すべきかどうかの意見を求められたことがあった。Windows3.1が出たばかりの時代である。インターネットブームはまだ始まっておらずパソコン通信の時代である。LANといえばNovell NetWareが全盛だった。個人的にはOS/2を使ってみて、切れ味のいいよくできたOSだと思っていた。すぐ落ちやすいWindowsよりも安定していることが実感されて、さすがIBMの製品は洗練されているものだと思ったものだ。


 組織の中では、強力にOS/2の全面導入を推進するグループがいたのだが、自分も部署ではそれなりにコンピュータに詳しい人間だと思われていたので、上の者から意見を聞かれた。そこでいろいろと秋葉原界隈であるとか業界動向を調べてみたら、その時点で流れはWindowsを採用する方向に傾いているとのことだった。おそらく当時のLANのNetWareの影響が大きかったと思う。OS/2でもLANを組めないことはないが、実績がないし価格を見るとNetWareよりもさらに高くつく。結局、OS/2が良いと思えるのはOSだけを見てのことであり、IBMメインフレームが導入されているところならば、PCを端末としてスムースに使えるのだろうという結論に至り、新規にLANを構築するのならばWindowsを採用するべきという返答をした。そうしてその後、経営者の判断でWindowsと、Windows NTが採用されることになった。その後のWindowsの発展を見れば、あの時点での自分の判断は正しかったと信じていたが、やはりOS/2は消え去ることになった。


 また一方で、当時からPC-UNIXにはずっと関心を持っていた。Sunなどのワークステーションを使いたくても使える立場になかったからである。OSのソースコードから読み解けるほどの力があったわけではないが、FDで10数枚組だったMINIXやBSD4.4のソースCDなどを手に入れた記憶がある。もちろん実装には至らなかったが、将来何かの役に立つだろうと考えてのことだった。Linuxが出てくる前の話である。


 UNIXといえば憧れの名前だったが、今から考えればこれがオープンソースの元祖だったと思える。大学や研究機関には無償で配布したのが普及のきっかけだった。しかしその正統な元祖を独占したいと考える企業によって、UNIXの商標や著作権は流転する。最後に入手したSCOがUNIXの商標を持つことから、他のUNIXクローンというべきOSにはUNIXという名前を冠することはできなくなった。いや、実質は何も困ることはないのだが、OSの話をする際に「UNIXとは何ですか」ということになる。会話にはUNIXはという言葉が頻繁に出てくるのだが、UNIXという名前のソフトウェアはどこにもないのだから。話は違うが、今のWeb2.0なんていう実体のない話に似ているかもしれない。


 正統なUNIXであるはずの実体のSCO UNIXは、どこかで使っているという話はついぞ聞いたことがなかった。思い出したのは、IBMを相手に訴訟を起こしたときである。そしてあれが最後のあがきだったわけだ。UNIXという名前が付いているからUNIXだったわけではないし、古いソースコード著作権を有しているからUNIXというわけでもなかった。


 この1年の話のつもりが昔話ばかりになった。今はUNIXの後継と見られるLinuxも、さまざまなディストリビューションがしのぎを削っている。正直なところ、ディストリビューションとは何なのかもよくわからなくなっている情勢である。Linuxの中でも、今後浮き沈みがあるだろうが、やはり正しいコンセプトを持ち続けていけるものが生き残れるのだろう。