将棋ソフトが現役アマ王者を破る

 例年この時期に行われている「世界コンピュータ将棋選手権」で「激指」が優勝、「棚瀬将棋」が準優勝となった。ちなみにどちらも東大が起源の将棋ソフトである。それらのソフトのエキシビジョンとしてアマトップの強豪との対戦も行われ、両ソフトともに人間に勝利することとなった。これで事実上、将棋ソフトはアマチュアの将棋レベルは乗り越えたといってもよいだろう。

「完敗でした…」将棋ソフトが現役アマ王者を撃破 (YOMIURI ONLINE)

 アマチュアといっても、現役のトップレベルの人たちはプロの中堅クラスの実力を持っている。プロは持ち時間が長い1日1局の戦いだが、アマは1日の大会で予選から決勝まで短い持ち時間での「早指し」で何局も勝ち切らなければならない。むしろ早指しならプロにも十分に対抗できるくらいである。


 今回のエキシビジョンも持ち時間が15分(NHKのテレビ将棋と同じか)という制限のもとであったが、時間が短ければ、コンピュータの方にもっと有利に働くようである。少なくともコンピュータには人間のようなミスはないからである。2局だけの勝利とはいえ、この条件ならば同じような実力の人間相手に6割強の勝ち星を挙げることはできるだろう。年々ソフトの実力が向上してきたことを考えれば、今回がちょうどアマチュアとの実力が逆転した時期に当たると考えてよさそうである。


 さてもっと考慮時間が長くなったときにどうなるかである。前述したように、もともとアマチュアは短い時間で試合を勝ち抜くことに慣らされているので、長い時間になったとしてもそれほど実力が変わるとは思えない。したがってアマチュアとの力関係はやはり同じだろう。コンピュータはすでにアマチュアを超えたと結論付けてもよいだろう。


 そうなるとやはり最終ターゲットはプロレベルへの到達である。プロといっても上は羽生から、アマチュアにも不覚を取るレベルの棋士までいる。プロレベルといえば、現役の名人や竜王を争うレベルということになるのだろう。その現役の渡辺竜王と将棋ソフトの「ボナンザ」が昨年エキシビジョンで戦い、渡辺竜王が辛勝している。渡辺竜王だからこそ勝てたが、プロ棋士の肝を冷やしたことは間違いない。ただ深い読みになれば、まだソフトの方には読み抜けが生じるようであり、その紙一重の差でプロは勝ちを収める。おそらくその差というのは、演算のスピードというよりはアルゴリズムの原理的な問題となるのだろう。


 「チェスができるコンピュータ」というのが人工知能の原点であった。すでにチェスは、コンピュータの圧倒的な読み切りのパワーだけで人間のチャンピオンと互角以上になったようである。将棋の方はチェスよりも場合の数が多いだけに、パワーだけでは真のプロレベルまでは到達できないかもしれない。そこでもっとアルゴリズムの進化が必要になるだろう。ちょうど超並列プロセッサを生かす本当のアルゴリズムが必要なのと同じような問題であるような気がする。しかし、それこそが本来の人工知能研究が目指していたものであったように思えるのである。