MicrosoftがYahoo!買収を断念

 結局、MicrosoftYahoo!の買収を断念した。買収金額を上げて交渉を本格化するか、敵対的買収に移行するかと注目されたが、それもポーズだったと思える。多少の金額の積み上げをしてもYahoo!側が拒否することは予想できていただろうから、撤退のための最後の形作りであったようだ。拒否の後にただちに撤退を表明したことからも、それが窺われる。

MicrosoftのYahoo!買収提案、3カ月で幕 (ITmedia)
マイクロソフト、ヤフー買収を断念 (CNET Japan)

 水面下ではいろいろな動きもあったのだろうが、当初からあまりユーザには支持される買収提案であったとは思えない敵対的買収を匂わせたやり方は、かつてのMicrosoftの強引なライバル潰しの手法そのままである。まずは自らの上を行くライバルのマネをした対抗製品を安価か無償で流通させる。それもWindowsとほとんど一体化して出荷し、ライバル製品はインストールされにくくするように、陰に日向に妨害をする。それでもライバル製品には適わないと見るや、札束に物を言わせてライバルを会社ごと買収してしまい、次のバージョンからはMicrosoftに冠した製品にしてしまい、シェアも丸ごと手に入れてしまう。こうして多くのアプリケーションソフトの分野で、Microsoftの独占が達成されてきた。


 ネット時代では勝手が違うようで、ソフトウェアはほとんどオープンソースとして普及してしまって、オープンソースの方が優秀であることがユーザもわかってしまっている。Microsoftの作り上げたライセンス帝国主義のようなものが、もはや通用する世界ではない。Webページ検索やポータルサイトとして、近年であればネット広告の分野を、MSNでインターネットの世界での独占を目指したかったのだろうが、そのような地位はYahoo!に、そしてGoogleにと持っていかれたようである。そうであれば会社ごとの買収の道を考えたのだろうが、Googleは強大になりすぎて不可能だけに、かつて1位だったYahoo!を買収して、夢よもう一度と考えたのだろう。そして現在2位のYahoo!さえも買収できなかった。これはMicrosoftの影響力の低下を示しているともいえるかもしれない。


 敵対的買収という手法そのものが、アメリカ社会ではもう20年以上前の古臭い手法である。株主からも社会的にもあまり受け入れられたとも思えない。そして株主にとっての利益であるが、Yahoo!の株主にとっても、Microsoft自身の株主にとっても合理的なものではないとの判断である。両者の株主を兼ねている投資家も多いであろうが、仮に両者の合意がこのタイミングでなされたとしても、両社の株価上昇にあまり繋がらないだろう。買収提案から話が間延びし過ぎた感がある。もし2月の時点で電撃的合意がなされていたとしたら、そのIT分野の起爆剤として期待感から株価も大いに上昇したかもしれない。しかしここまで引き延ばされたということはYahoo!側が乗り気でないことは、誰の目から見ても明らかであった。


 こうなると強引に買収したとしても、その時点からYahoo!側の人材が流出しだすことが懸念されてきて、Microsoftが実は最も欲しかったYahoo!のネット技術者の人材が失われるという皮肉な結果となりそうである。Yahoo!のCEOからしてもともとMicrosoft嫌いだといわれるし、結果的にあまり今回の買収は初めから実現性が低いことだったのかもしれない。


 今後は元の鞘に収まるか、むしろこの買収失敗劇をきっかけとして別の動きが進んでくることも予想される。1つは現在進みつつあるYahoo!Googleの結びつきが強まることである。これまではYahoo!社員には抵抗があったGoogleとの提携も、「Microsoftに買収されるくらいならGoogleと提携した方がまし」という考えに割り切るようになるかもしれない。そして今回登場してきた他の提携候補だった企業であるTime WarnarとかNews Corp.との新たな提携へと進むかもしれない。広い意味でのネット業界の再編はこれらの動きから出てくるかもしれない。


 さて買収に失敗したMicrosoftは、買収予算を自社開発に向けるとのことだが、これまでのネットに対する基本姿勢とそれほど変わるとも思えない。NovellなどとのLinuxでの提携などはあるものの、基本的には1社でネットのあらゆるジャンルで対抗を続けていくつもりなのだろう。あるいは今度は、Adobeのような旧企業に属する企業を買収するようなことを考えるかもしれない。いずれにしろ買収断念は、おおむねネットの世界では歓迎されるものと思える。