Googleを追う立場になったMicrosoft

 日経の紙面の記事で、たまたまビル・ゲイツの話を見かけた。すでに福祉事業に専念するため、一線から身を引くことを表明しているゲイツだが、ネット分野でのGoogleの急速な進攻から、引退までのシナリオに狂いが生じているのだという。そうした背景のもとで、講演では「この1年間ネット事業に全力を尽くす」という意思表示をしたという。


 特にネットサービスの分野では、Googleの後塵を拝しているだけではなく、Google Docs & Spreadsheets が登場したことにより、Microsoftの収益構造を支えてきたOfficeの存在すら脅かされる事態になってきている。こうした状勢に、ゲイツ自身、自分の目が黒いうちにはMicrosoftの衰退を目の当たりにはしたくない、という意を強くしたのではないかと思われる。


 かつてのソフトウェア販売競争では、Microsoftは徹底的にライバル企業の製品のシェアを奪う戦いを行ってきた。先行するソフトウェアが出回っているジャンルでは、その機能のマネをした後発製品を安価に発売してシェアを奪い、あるときにはWindows OSに無償でバンドルする製品としたり、それでも勝てないと見るや、強引に札束で相手の顔を叩いて会社ごと買収してでも、シェアを獲得してきた。
 ユーザからすれば、そのことによって、もはやソフトウェアの選択の余地がなくなり、好むと好まざるとに関わりなく、Microsoft製品を買わされ、利用せざるを得ないことになった。
 その結果、多少ともコンピュータがわかっている人たちには「Microsoftをよく思っている人はいないが、Microsoft製品を使わない人はいない」という時代になった。


 典型的なのはMac信者で、自分の趣味としてはMacしか使わないが、仕事の上ではWindowsを使わざるをえないという立場である。ある職場でそんな同僚に、しぶしぶWindowsを使って何か操作するたびに、横からWindowsの文句を聞かされたものだ。曰く「よくこんなものを使っていられるね」と、Microsoftの代わりにこちらが非難されているみたいだった。


 ところが、かつてそのMicrosoftと真っ向からOSのシェアを争っていたアップルが、だいぶ親密な関係になりそうな気配だ。

ついに! ゲイツ氏とジョブズ氏が夢のステージへ--D5会場レポート

もともとゲイツとジョブスは、会社同士はライバルであっても、個人的には同世代のライバルでもあり親友でもあったから、今頃握手したからといって、特に驚くには当たらない。
 だが、この時期にこのようなパフォーマンスを行ったということは、Microsoftがアップルと提携をしてでも、ネット分野でGoogleを追撃したいということの意思の表れではないのだろうか。

 しかし現状では、アップルの方が、アップルコンピュータという社名から、あえてコンピュータの文字を消した企業戦略からもわかるように、軸足の置き方としてはいいポジションにいる。MicrosoftだろうがGoogleだろうがYahoo!だろうが、アップルにとって都合のよい全方位的な提携を組める立場にあるからだ。


 また、少し前にMicrosoftYahoo!を買収するのではないかという噂が流れたが、こちらの方も何やらキナ臭くなってきているようだ。

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昨年末以来、Yahoo!の創業時からのトップの退任などが相次いでいるようで、こちらもGoogleに対しての劣勢が原因であるようだ。Yahoo!Google追撃のために、経営陣、技術陣の大幅に入れ替えが起きているとすれば、発想も変わって、Microsoftとの提携も現実的になってくるかもしれない。


 「ネット事業に全力を尽くす」ゲイツの置き土産が実はYahoo!買収の成功だったということは、あり得ない話ではないだろう。