記憶を消し去る薬

 にわかには信じられないタイトルだが、ちょっと話題になっていた記事なので、便乗して考察してみる。

ついに薬を使って記憶を消し去ることが可能に (GIGAZIN)

 薬を飲むだけで都合の悪い記憶が消せるとは、死ぬか生きるかで悩んでいるような人達には、朗報になるのかもしれない。あるいは最近の犯罪の動機などで「人生をリセットしたかった」などという意味不明なことを言う輩も、悩みや恨みから自殺や殺人を犯すよりは、その前に記憶を消した方がよいと考えられるかもしれない。


 よく読んでみると、もともと記憶障害の副作用を起こしやすい薬をうまくコントロールして、トラウマやPTSDなどの不都合な記憶障害を排斥するということのようだ。

 ただ人間の記憶というものは複雑であるので、そんなに都合よく記憶内容を分離・識別できるものではないだろう。「脳に記憶される」といっても、脳の特定部位に特定の記憶内容が局在化して記憶されているわけではない。いわば脳神経のネットワーク全体で記憶されているはずである。なので、特定部位が損傷を受けたとしても、記憶はなくなりはしない。まさに分散型ネットワークの中のデータみたいなものである。
 そこで記憶を消すプロセスとしては

脳から読み出された記憶が、脳にまた格納されるプロセスを妨げること
によって、記憶を消し去ることに成功したとのこと。

だそうである。「脳から読み出された記憶が、脳にまた格納されるプロセス」というのがよくわからない。思い出そうとする機会がなくなれば、だんだんと連想するための神経が切れて少なくなっていき、記憶が薄れていくというのはわかる。運動していないと動作が鈍くなっていくのも同じだ。しかしコンピュータのメモリのように、書き戻されるということはあるのだろうか。いわば空白のデータを元の記憶パターンに書き戻すというのだろうか。
 連想する2つの記憶の間の関連付けを解消するというのも同様である。そんなに単純なリンクで連想記憶が繋がれているとは到底思えないのだが。

 とりあえず、うまく処方した薬を与えたら、精神的な小康状態が得られたという程度のことなのではないか。しかし、それなら精神安定剤とたいした変わらないか。


 どこまで信憑性、あるいは人間に有効なのかはわからないが、本当なら人類の未来的には、遺伝子操作やクローン人間と同じような影響を持ちうる話かもしれない。人工臓器やら整形も含めて、人間はすべて加工修正(リセット?)が可能だということになるだろう。ますます「アンデンティティとは何か」がわからなくなりそうである。