バリー・ボンズ756号メジャー新記録

 バリー・ボンズがメジャーホームラン記録を塗り替える756号を達成した。ハンク・アーロンの755号、ベーブ・ルースの714号を抜いて、31年ぶりにメジャーの歴史を書き換えたことになる。本来、それを讃える論評ばかりになりそうなものだが、今回の記録だけはそうではないようだ。

ボンズがメジャー本塁打新記録! アーロン抜く756号

論調としては、讃えるべきか無視すべきかというものである。もうだいぶ前から問題になりだしたステロイドの薬物疑惑のためである。ボンズに限らず、ある時期多くのメジャーの選手はあまり意識なく、薬物に頼っていたと思われている。その中でボンズが歴史的記録を達成してしまったものだから、汚された記録のように見る向きが出ている。ボンズ1人が問題ではないが、最も偉大な記録だけにその責任が集中しているような感じである。裁判では司法取引もある米国社会の中で、この問題の白黒が付くことがあるかどうかも何ともいえない。論調には微妙に人種問題も見え隠れしている部分もあり、メジャーコミッショナーも、ベースボールのファンもどう反応してよいものかどうか苦慮しているようでもある。


 Aロッドが史上最年少で500号を達成したばかりでもあり、早くもAロッドがボンズの記録を更新する期待が言われてきてもいる。生涯通算で700号を超えるのはおろか、あのソーサでさえ606号だそうだから、当分ボンズの記録が破られることはなさそうであり、関心が薬物疑惑の成り行きの方が大きいというのも不幸なことだ。


 それを考えれば、日本の記録はメジャーでは認めていないとはいえ、王監督の868本の世界記録はご安泰だから、何となく安心できるようなところはある。WBCの渡米の折、米記者からの「日本でのホームラン記録は、メジャーから見れば認められていないのではないか」というぶしつけな質問に対して、王監督は即座に「アーロンはアーロンだし、ルースはルースだし、王は王なのですから」と嫌な顔1つせずに答えて、記者らに感銘を与えたという。イチローをして「王監督の持つあの品格は何なのだろうか」と言わしめた存在感でもあった。米国でWBC優勝とは別に、日本のホームラン王サダハル・オーの威厳を示した時でもあった。


 どんな歴史的偉業にも、人々の尊敬がつきまとうものだが、メジャー記録の中でも最も偉大な記録にその尊敬の念が薄れかかっているのだとすれば、残念なことである。