Webトラフィック管理強化の是非

 公益か管理か、インターネットの根本に関わるトラフィックの管理の是非をめぐって米国で議論になっている。動画などで増大し続けるトラフィックを管理したいとするISPと、特定企業がトラフィックの内容によって差別をするべきではないとする公益団体や消費者団体との対立である。

米ISP、Webトラフィック管理強化の必要性を訴え(ITmedia)
「オープンソースは反資本主義ではない」―サンのマクニーリ氏が米国政府当局者に反論 

 数年前でさえ、インターネット全体のトラフィックの6割は実はYouTubeの動画によるものと言われていた。YouTubeインターネットただ乗り論争とも言われた。ISPトラフィックの管理を言い出したことから、再びこの論争に火が付いてきたのだろう。しかし、ネットは何年か違うと状況が一変してくるので、元と同じ論争とも言い切れない。


 YouTubeが登場してあっという間に広がったのは衝撃的だったが、現在ではネットの動画はごく普通のものになっているという感覚がある。それどころか動画によるリアルタイムコミュニケーションやIPTVも、お茶の間にまで普及しそうな勢いである。
 そうなると堪らないのが、ISPなどの回線サービス事業者である。ISPの規模によってはインフラ整備の方が追いつかなくなる可能性もある。そこで負荷の高いトラフィックとそうでないものを管理して、場合によっては制限をかけたくなるわけだ。


 前の論争時には、ISPなどはYouTubeSkype(e-Bay)などコンテンツ事業者に対する負担を主張していたようだが、今回はやや異なるように思える。Webサービスのコンテンツが、コンテンツ事業者によるものだけとは限らなくなっているからである。特にWeb2.0以後は、Webサービスはユーザ主導のもの(CGM)になってきて、事業者は実質的には、入れ物を提供しているだけになってきている。その入れ物の中に文字や画像を入れようが、動画をアップロードしようが、それはユーザ個々の判断であり、事業者はファイルの内容には関知しないという立場は取りうる。Webサービスとはいえ、ストレージサービスにインターフェースが付いただけのようなものである。これではコンテンツ事業者を標的にはしにくくなっているだろう。そうなると、受益者負担ということでユーザごとあるいはアプリケーションごとに、トラフィックの管理を向けざるを得なくなる。今度はそれに消費者団体が反発するという構図である。


 今後、クラウド時代になると、ますます多種多様のWebサービスに必要なトラフィックが、世界中のサーバーを回ることになるだろう。サーバー間のリソースの有効的な活用は可能になると同時に、それにともなうバーターとして、サーバー間のデータ転送を含めてトラフィック量が増大することになるだろう。現在のところは帯域幅の増強にによってまかなわれているが、クラウドサービスでも動画サービスが一般的になってくると、再び帯域を圧迫してくることになるだろう。いずれクラウドサービスのインターネットただ乗り論が出てきてもおかしくはない。


 ところでオバマ政権では、まだIT政策の方針が定まっておらず、責任者も決まっていない状態だという。オバマ大統領自身は大統領選の頃から「ネットの中立性」を強く支持しているのだという。トラフィックの話ではないが、SunのCEOのスコット・マクニーリが、米政府にに対してオープンソースこそが自由競争だと主張している。この経済不況化での、オバマ大統領の新しいIT政策の転換が求められている。


 かつてクリントン政権下でのゴア副大統領の「情報スーパーハイウェイ計画」を推進した米民主党ながら、さすがに現在の金融危機対策でそのどころではないという状態なのか。それにしても普通に考えれば、IT政策は景気浮揚に繋がる話になりそうに思えるのだが、それ以前に不良債権処理などによって金融の基盤が安定しなければ、ITといえども砂上の楼閣に過ぎないのかもしれない。