持ち込みノートPCとシンクライアント

 ほとんどタブーと思われてきた個人の持ち込みPCの業務利用が、ここに来てむしろ増えつつあるというアンケートデータがある。とりあえず米国などでの話だが、不況、セキュリティ、クラウドネットブック、Web OSなどが絡みあった問題とも言えるだろう。

社員の10%が会社に個人のノートPC持ち込み Gartner調査(ITmedia)
既存PCをシンクライアントに DNPが新システム(ITmedia)

 個人所有のノートPCを職場に持ち込んで、野放図にネットに接続できたとすれば、公私混同の結果、故意か無意識かに拘わらわず、ネットに個人情報や機密情報が漏えいする、というのはよく聞いた話で、社会問題化さえしている。日本ではプライベートでWinneyを利用していた結果、ウイルス感染して、同じPCに含まれていた業務関係のフォルダの内容が流出してしまうというのがよくあるパターンだった。この場合、まず個人所有のPCにウイルス対策をしていなかったこと、業務も行うPCで危ないWinneyを利用したこと、業務に個人所有PCを使用したこと、あるいは自宅など外部に業務用データを持ち出したこと、などが問題とされるだろう。


 そこで組織のポリシーとしては、Winneyなどは使用しないこと(日本ではこればかり問題にされる)、個人所有のPCやUSBメモリなどで業務データを外部に持ち出さないこと、そしてそもそも個人所有PCを持ち込んでならないことが徹底されてきたはずである。しかし「Winneyは使うな」という上司の訓示だけで対策というのでは、お寒い限りである。


 ところがこの未曾有の不況で、組織によっては社員全員に業務用PCを配布できないケースもありうる。そうなるとコスト削減の観点からも、個人のノートPC持ち込みは、むしろ有り難いということになる。非正規雇用の社員が多いところなどではなおさらだろう。セキュリティのきれい事以前に、業務ができないのでは背に腹は代えられないことになる。その実態を表した調査の数字といえるのかもしれない。


 そこで「背を腹に代える」べき方法というのが、仮想化でありシンクライアント化であるといえるだろう。仮想化ならたとえば個人所有のPCがWindowsであれば、その中にVMwareVirtualPCでデスクトップ仮想化を行い、仮想化OSの方からネットに接続させる。ホストOSと仮想化したゲストOSとのは直接の通信を禁止すれば、Windows側から影響されることはない。ただ仮想化はそれなりに設定が面倒なので、あまり個人に依頼できることではない。


 もっと徹底するのは個人所有PCのシンクライアント化である。といっても、USBメモリを挿してそこから起動させるだけである。ネットとの接続もすべてUSBメモリに設定してあり、ノートPCのローカルHDDはマウントしないようにする。必然的に作業したデータはすべてサーバー側に保存するようになる。ローカルのUSBデバイスへのダウンロードも禁止である。実質的にはすべてWebサービスだけで業務は完結できるようにする。すなわちクラウド化されていることである。


 さらに言えば、こうした目的でコスト削減を旗印にするのであれば、業務で配布だろうが個人所有だろうが、適しているのはネットブックであろう。そしてライセンスの縛りやUSBメモリ・インストールができない(Windows 7がどうなるかはわからない)Windowsは避けた方がよいということになる。近い将来的にはそれがChrome OSになるか、UbuntuのようないずれにしろLinux系で実現できるはずである。


 そうした方向かどうかははっきりしないが、DNPがサーバー込みでUSBメモリ起動で既存PCをシンクライアント化するシステムを発表している。自分もほとんど同じようなLinuxベースのシステムを提案したことがあり、今もクラウドを含めたプランを持っている。技術的にはある程度当たり前のシステムなのだが、特に事務系の人たちには、まずLinuxだということへの抵抗感、システム的なセキュリティよりも、出てくる画面の操作性などの方へばかり関心がいくようで、なかなか理解されなかったという経験がある。まだクラウドとかWeb2.0が言われていなかった頃の話である。現在はもう少し、不況のことも含め世の中全体の意識が変わったといえるだろうか。