Amazonが「Virtual Private Cloud」提供へ

 クラウドサービスを提供するAmazonが、従来のサービスに加えて「Virtual Private Cloud」を提供することになるという。クラウドも初期の次の段階に進んでくるということだろうか。

アマゾン、クラウドサービス「Virtual Private Cloud」を提供へ(CNET Japan)

 クラウドというと雲の向こう側、「ネットの向こう側」にネットのリソースやデータをすべて置いてしまうという印象が大きい。もともとネットの設備や運用体制の貧弱な組織にとっては、クラウドに依存することは大きなメリットになる可能性が高い。一方、ネットの設備や体制を持つ組織やデータセンターなどにとっては、時代の大きな流れとしてはクラウドに向かうものの、現状の体制をどう移行させていくのかということが大きな問題であった。


 またクラウドでは、運用やデータまでも他社であるクラウドベンダーにすべてアウトソースしてしまっていいのかというポリシーの問題とリスク管理面での抵抗も大きい。大きな組織ほど「責任の所在」を問われることになるからである。安全だと思われていたGmailがダウンしたとき「それみたことか」のような反応があったのも記憶に新しい。


 どんなシステムでも「絶対」ということはありえないが、心理面でいうとクラウドと自前のシステムは銀行の預金の問題に似ているという、例え話がわかりやすい。銀行に預金をしておくと、もし銀行がつぶれたり、オンラインシステムに障害が起きたりするのが心配だから、タンス預金にするというものである。では自宅が火事や地震で無くなったらどうするのか、あるいは泥棒に入られる心配はないのかという比較の話である。自前のシステムは大金を持ち歩いているようなもので、サイトへの狙い撃ちのアタックも受けやすくなる。そうした防衛にも万全だという企業は、ネット関連企業以外では難しい。


 しかし、現状の自前のシステムをすぐにゼロにすることも現実的ではないことも明らかである。クラウドに移行するとは、すぐに自社サーバーを廃止して、AmazonGoogleに丸投げしろということではないだろう。ネット事業の重点をどこに置き、シフトさせていくかということである。まさに自前のネットワークを「プライベートクラウド」化するということは、クラウド時代に合わせて、内部ネットにも革新を進めていくことである。「ミニクラウド」という言葉も使われていたと思う。


 簡単に言えば、クラウドプライベートクラウドの関係は、かつてのインターネットとイントラネットの関係に似ている。インターネットブームが起きたとき、ネットとは何か、あまりよくわからずに、みなインターネットに飛びついた。しかしだんだん内部ネットの重要さが認識されてきて、同じ技術でネットの外と内が構成されることになった。クラウドによってネットの向こう側が構成されつつある現在、改めてネットの内側が再構成されることが必要になってくる。そうしてインターネットとイントラネットVPNで結ばれたように、クラウドプライベートクラウドが結ばれる可能性が出てきたということであろう。


 現実的にはプライベートクラウドは、どういう構成、役割を持つことになるだろうか。フロントエンドの役割はクラウドに移行していくこととして、プライベートクラウドはそのバックアップが主な役割となるだろう。ここでクラウドのサーバーは仮想化されていることが重要である。仮想サーバーのバックアップは、常にプライベートクラウドが保持しており、いつでもフロントエンドのクラウドにロードさせることができる。クラウドでのデータベースの形態は、まだはっきりしないが、データも同様にバックアップを常に保持する。少なくても万が一、ベンダーのクラウドが一時的にダウンしたとしても、前述のGmailのときのような不安を持つ必要はなくなるだろう。同時に日常の運用の重要性はクラウドに移行しているので、プライベートクラウドの保守・運用の負担は軽減されることになるだろう。


 さてプライベートクラウドをどう構築するかが、技術的はまだ余地があって面白いかもしれない。いずれにしろHadoopのような分散処理のオープンソースのツールを使うことになるが、非力のサーバーでも数を集めて、それなりにネットの信頼性を高めるシステムを構築できるようになれば大きな成果になるような気がする。実はこれは現在の自分のテーマの1つでもある。