亀田とパフォーマンス

 なんか普通のファイトだったね。あれだけ叩かれた後だから、パフォーマンスの方はともかく、ファイトの方は慎重になって普通になった感じだ。プロなんだから、実力が接近して真剣になればそんなものだろうが、場外パフォーマンスとのギャップが大きい。結局は見る方が、面白いと思うかどうかなんだろうが、面白くなかったというのが本音だ。ボクシング界もスター不在で、テレビ局も肝いりで無理やりスターにしようとしているのだろうが、ちょっと底が浅すぎるよな。前回は、判定の世間の批判だけでなく、具志堅とかガッツ石松も苦言を呈していた。やはり大先輩の言葉にはよく耳を傾けるべきだよな。
 最高の場外パフォーマンスとして記憶に残るのは、猪木-アリ戦の記者会見のときのものだ。ビッグマウスで知られるアリの「ペリカン野郎」という散々の挑発に対して、堂々と紋付姿で現れた猪木は余裕の笑いを見せながら、アリに松葉杖をプレゼントしたり「試合が終わったらオレの会社の事務員に雇ってやろう」などとやり返す。猪木の意外に冷静な反応にアリの方が唖然としてしまう。世界のアリに対して、挑発合戦ではどう見ても、世界では無名の猪木の勝ちだった。このときの猪木は最高にカッコよかったと今でも思う。
 試合の方は、膠着状態のまま、3分15Rフルに戦って引き分け。世間からは「世紀の凡戦」と叩かれた。テレビの芸人にもワイドショーでさんざん馬鹿にされた。猪木ファンだった子供心に、それが悔しくてしかたなかった。たまたま聞いたこの人のインタビューだけは違った。「いや、両者が真剣になればそんなもんです。そんなもんです」と、真面目な表情できっぱりと言っていた。それは誰あろう、あのガッツ石松だった。今でこそOK牧場のオジさんだが、やはりファイトを見る目は違う。見る人が見れば、凡戦どころか息詰まる真剣勝負だったのだ。寝たままの状態から繰り出したアリキックの足へのダメージのせいで、後日アリは本当に入院を余儀なくされる。猪木が送った松葉杖は現実のことになったわけだ。
 また年末も、格闘技とパフォーマンスで盛り上げようとするだろうが、若者に夢を与えられる闘いは少なくなったな、と思えた今日の試合であった。