現役続行・野茂英雄

 久しぶりに野茂の映像が目に飛び込んできた。といっても、新しい清涼飲料水のテレビCMでのことである。

野茂、CMで“現役続行”挑戦し続ける大人の代表として起用

 一昨年、デビルレイズで日米通算200勝を達成してから突如解雇、その後ヤンキースホワイトソックスのマイナーを渡り歩きながら、表舞台に登場することがなくなり、昨シーズン、今シーズンと全くその動向も報じられなくなっていた。といって、明確な引退宣言がされたわけでもなく、現状はどうしているのか気がかりだった。CMの顔からは、いくぶんスリムになったようにも見える。


 メジャーで活躍する選手の報道が珍しくなくなっている現在だが、やはり野茂のことになると、他の選手とは全く思い入れが違う。野茂の場合、たとえ一時期不調だったりメッタ打ちを受けたとしても、メジャーでの評価は全く揺るぎないものである。


 日本人メジャーリーガーの先駆者は、正確には第1号選手は村上雅則だが、メジャーに確かな足跡を残し、その後多くの日本人選手のメジャー入りの契機も作ったという意味では、やはり野茂が先駆者であることに間違いはない。

 松坂は、日本人選手もここまで来たかと呆れるくらいの過大評価でメジャーに迎えられたが、野茂の場合は正反対だった。当時の近鉄と契約上トラブルがあり、事実上日本球界を追放される形で、メジャー最低保障年俸でドジャースに移籍した。当時は専門家からでさえ「メジャーでは絶対通用しない」、「あんな投球フォームでは無理」などと酷評されていたものだった。

 前年のストライキが響き、観客動員が懸念されていたメジャーリーグで、背面投法と言われた独特のフォームからトルネード旋風を巻き起こして人気を博し、救世主にもなって、その年のオールスター戦の先発投手にも選ばれた。なにより「ヘデーオ、ヘデーオォ♪」と始まる野茂を讃える歌まで登場したのは印象深かった。
 そして、めったに感情を表に出さない男は渡米前の評価を覆し、メジャーで10年間も通用する選手になった。


 「寡黙の男」、「反骨精神」、「先駆者」を体現し、日本国内では群れない野茂は、実は最も日本人が魂を揺さぶられる男である。
 戦前の「日本プロ野球の先駆者・沢村栄治」に並んで「日本人メジャーリーガーの先駆者・野茂英雄」の名は、もはや歴史に刻まれていくものだろう。


 手術とリハビリをしていたはずだが、それも癒えたはずなら、契約する球団がないということだろうが、もはや日本球界復帰は本人も望まないだろうし、ありえないだろう。
 メジャーでは40歳台の投手も珍しくない現在、ロジャー・クレメンスヤンキースで復活しそうだし、メジャー経験のない39歳の桑田も這い上がろうとしている。日本では横浜・工藤も44歳で復活の今季初勝利を先日挙げたばかりだ。

 2年ほどのブランクがあるとはいえ、野茂はまだ38歳である。「どこでも使われなくなったら、NOMOベースボールクラブででも投げたい」と冗談とも本音ともつかないことを言っていたが、それはまだまだ先のことだろう。


 野茂の代理人は、ずっとダン野村のはずだが、その手腕が疑問視される向きもある。野茂があれだけの数のメジャー球団を渡り歩かなければならなかったのも、代理人の契約交渉が下手なせいではなかったのかと。


 CMに出演する心境になったのは、まさか生活のためではないだろうが(NOMOベースボールクラブ運営資金のためならありうるが)、現役続行のCMのコンセプトには、野茂自身のファンに向けてのメッセージも込められているものだと思いたい。