健介3冠王座とチャンピオンベルト

 いまさらプロレスの話でもないだろうが、佐々木健介全日本プロレス3冠王座を獲得したというので、少し思い出したプロレスの昔話をしてみよう。

健介涙!宿敵みのる沈め初3冠/全日本
健介初3冠!王座からみのる引きずり降ろした…全日本・両国大会

今ではすっかりローカル団体のチャンピオンベルトになってしまったが、3冠王座と称するプロレスのベルトは、日本のプロレスの歴史そのものを刻んでいるものである。佐々木健介がプロレスデビュー前からあこがれのベルトだったと言うのも無理はない。詳しい歴史は以下がわかりやすい。

チャンピオンベルト変遷史(SportsClick)

3冠王座とは、インターナショナル(インター)王座、ユナイテッドナショナル(UN)王座、PWF王座の3つを統一したものである。1988年にジャンボ鶴田スタン・ハンセンと統一戦を行って獲得してから、以後はばらばらにタイトル戦が行われることはなくなった。いつも勝者が3本のチャンピオンベルトを掲げるのも事情を知らない人からすれば、奇妙な光景ではある。


 中でもインター王座は、1958年に日本のプロレスの始祖・力道山ルー・テーズから奪取したというのが始まりであるから、実に50年間も存続しているタイトルだということになる。


 力道山の死後、後継者とされたジャイアント馬場がこのベルトを引き継ぎ、プロレス史に名が残る外国人レスラーと多くのタイトルマッチを行い、馬場の代名詞ともいえるベルトになった。馬場に対抗心を燃やす猪木は、インター王座への挑戦を訴えるが、当時のプロレスはトップの日本人対決はタブーとされていたため、猪木には別のベルトを獲得させることになる。これがUN王座だった。
 両雄並び立たずで、猪木、馬場とも力道山の作ったプロレス団体(日本プロレス)から離脱して、それぞれ新日本プロレス全日本プロレスを設立して、興行的には袂を分かつことになる。両エースを失った日本プロレスは、あっけなく崩壊する。


 しかしそれぞれの新団体には、目玉となるベルトがない。猪木はアメリカのマイナー団体であるNWF王座を獲得する。猪木の全盛期の頃の数々の名勝負は、このNWF戦のものが多い。馬場は自分が力道山の正統の後継者であるということから、力道山の所有していたインター王座の古いベルトを復活させ、PWF王座を創設する。またインター王座は、日本プロレス崩壊後、大木金太郎が保持していたが、結局全日本プロレスに返上させられる。UN王座も同様に全日本プロレスに渡ることになる。こうして歴史のある3本のベルトは、全日本プロレスに集中した。


 背景としてあるのは、馬場の方が猪木に比べてプロレスの世界では政治力があったということである。力道山後継者としての根回し、米国では当時、NWAというプロモーター組織が絶対的であり、全日本プロレスだけが加盟が認定され、猪木の新日本プロレスは拒絶された。最高峰のベルトはNWA王座であり、馬場も国内で一時的に獲得して歴代王者に名を連ねたりもした。猪木と新日本プロレスはこれらのベルトには全く無縁なことになった。


 こうしたことから、25年近くも両団体の抗争は続くことになる。権威ある王座を持たない新日本プロレス実力主義で、新たな権威を作り出さなければならない。実力世界一とか、異種格闘技戦という路線に走ることになる。実力世界一を標榜したものがその後のIWGP王座であるが、猪木がハルク・ホーガンに惨敗した時点でこの目論見は崩れ、以後は新日本プロレスのローカルベルトになっている。モハメド・アリ戦に代表される異種格闘技戦は、現在の総合格闘技の発展に大きな影響を与えたといってもよい。結局、ベルトをめぐって馬場はプロレスの保守的なスタイルを貫き、猪木は過激にタブーにも挑戦してきて、興行上の仕掛けや弟子の育成という点では足跡を残してきた。


 全日本プロレスは、馬場と鶴田まで亡くなり、その後分裂してマイナー団体になった。だが歴史あるベルトだけは残っている。団体に所属しないレスラーでも挑戦、獲得ができるようになったので、いろいろなレスラーにたらい回しされるようになった。当然ながら、昔のような権威の面影はない。しかし健介のように昔レスラーを志した人間ならば、力道山以来の憧れのものであることには間違いはないだろう。

 国内だけではなく、かつてルー・テーズなどが保持していたNWA王座もすでに権威がなくなり、やはりマイナー団体によるたらい回しになっているようである。プロレス団体といえば、エンターテイメントのWWEの一人勝ちであるが、もはや昔のプロレスの面影はなさそうである。


 あまり権威あるベルトに縁のなかった猪木が、もうひと仕掛けを目論んでいるのが、IGFである。9月8日に第2弾の興行が行われることが決定しているが、さて、プロレス復興の目はあるのだろうか。