UNIX著作権の告発の行方
何か映画のタイトルをもじってみたが、連休であまりニュースが更新されていないが、誰にも忘れ去られているであろうこんな記事があった。皮肉を込めた意味で「UNIXは終わった」とでも言えばいいのだろうか。
UNIX著作権訴訟に敗れたSCO、ついに破産保護申請 (ITmedia)
AT&Tベル研から1970頃から始まったUNIXの商標権とソースコードの著作権は、AT&Tが手放してからその後USL、Novell、SCOと放浪することになる。コンピュータの世界でこれほど重要なUNIXが、特定の会社のブランドとして転売を繰り返されたのはどうしたことか。
UNIXはその後バークレイでBSDが派生し、これが元でSunのOS、Solarisへと続いていく。PCでは新たにLinuxのソースコードが書かれオープンソースとなる。BSDもオープンソース化され、PCではFreeBSDなどへと繋がっていく。もはや元のUNIXのソースコードを必要とするUNIX系のOSはないと言ってもよい。またUNIXという商標も使えないので、実質UNIXではありながら、別の名前を付けているわけだ。UNIXという名称は、コンピュータ屋には日常的に使われる言葉だが、それはシンボリックな意味か、歴史的名称でしかない。
本家UNIXを名乗って最後に商売(UnixWare)をもくろんだのがSCO(Santa Cruz Operation)だったのだろうが、もはや主流ではなくなり、ほとんど売れなかったのだと思われる。そこで売れないのはクローンOSがフリーで出回っているせいで、それが元のUNIXのソースコードの著作権を侵害しているとのことで、Linuxなどを全面的にサポートしているIBMを訴訟にかけたわけである。
この訴えが正当であれば、現在フリーでLinuxを使用しているすべてのユーザにも著作権料を支払えという馬鹿げた話になる。当初からUNIX系の団体やコミュニティからは相手にされないどころか、冷ややかな目で見られていただろう。直接の訴訟の相手はIBMなので、成り行きを気にしている人もほとんどいなかっただろう。誰もがこれを「馬鹿げた訴訟」ということがわかっていたからである。
金持ちのIBMに難癖をつければ、いくらかでも金がとれるかもしれないと踏んだのかもしれない。オープンソースの世界全体を敵に回すというより、誰にも相手にもされなかったというところだろう。
しかし、裁判所の判断はもっと意外なものであったようだ。
[WSJ]UNIXの著作権はNovellにあり――裁判所が判断 (ITmedia)
そもそもSCOが買収したと思っていたソースコードの著作権は移っていなかったというオチである。買収契約がどんなものかは知る由もないが、SCOに売却したと思われていたNovellがいまだに所有しているとのことのようだ。そうであれば訴訟そのものが初めから無意味だったということであり、予想より「もっと馬鹿げた訴訟」だったようだ。裁判そのものに社運をかけた?のか、SCOは倒産してしまったというオチまで付いたようだ。
UNIXの権利を手に入れたところが、実はUNIXとは何かということをもっとも理解していなかったような結末である。
ところで多くのOSは、UNIXではあってもUNIXという名称は使えない。Linux系を含めて現在のUNIX系OSは、すべてあくまでUNIXクローンのOSである。しかし、クローンの方が本流になることはコンピュータの世界ではよくあることである。典型的な現在のx86系のPCアーキテクチャは元はIBM PCのクローンである。後にクローンの方が主流になって、IBM自身が純正のアーキテクチャをあきらめ、クローンPCを作るようになり、ついには近年、PC事業そのものを中国に売却してしまった。
なおWikiによれば、日本国内ではUNIXという名前の美容室があるのだそうである。およそOSの名前とは縁がなく、語感だけで付けた名前なのだろうか。