世界の伊達公子が復活

 11年前に引退したテニスの伊達公子が突然の復帰宣言し、いきなり緒戦のツァーでシングル準優勝、ダブルス優勝を果たしてしまった。マスコミもファンもテニスは伊達の動向に釘付けになってしまっている。さすが世界の伊達という賞賛と、日本人選手のレベル低下を嘆く声など、さまざまな見方があるようだ。

【テニス】クルム伊達、複でカムバックV!単でも準優勝 (Sanspo)

 北京五輪が近づいている時期に、いろいろな競技で女子選手が注目を浴びることになって、その競技自体の人気が高まるということがしばしば見られる。しかし伊達の引退以来、女子テニスにどれほどの注目度があったかといえば、少なくとも他競技に比べても決して高いとは思えなかった。それは伊達ほど世界に通用する選手が出てこなかったからだともいえる。


 ダブルスでペアを組んだ選手が16歳ということを考えると、親子ほどの年齢差にもなるあたりに年月の流れを感じさせる。しかし37歳という年齢ばかりが強調されているが、最近のスポーツに関してはあまり年齢は関係ない風潮であると思える。確かに五輪代表や世界選手権出場が目的であれば、選手として旬の時期でなければメダル獲得には至らないだろうが、そうではなくてプロとして息長くプレーを続けることが目的であれば、いかに選手としてのコンディション調整や、トレーニング方法を含めた体のケアをするかということにかかっているように思う。科学的なトレーニング方法が進んできたことによって、多くのスポーツ分野で選手寿命が延びてきているようである。もはや根性論と美しい花道の引退だけの時代ではなくなっている。


 伊達の場合は復活できた理由は何か。簡単に言えば、25歳という引退が早すぎたせいのように思う。スポーツ選手が引退する理由は、体力的限界、怪我による限界、精神的な限界などであろう。通常、30歳過ぎたあたりから、それまで蓄積された金属疲労のようなもので怪我や故障が多くなり、復帰するにも時間がかかるようになる。それが試合の勝敗にも影響するようになり、精神的なダメージも大きくなるだろう。伊達はそうなる以前に引退したため、こうした現役選手が避けて通れない怪我や故障から体が温存されていたともいえる。そして引退してからも、ただのオバサンになっていたわけではなく、試合をしなくなってもトレーニングや体のケアに怠りはなかったようである。テニスの指導はもちろん、フルマラソンを達成するほどだったという。こうしたことから復帰するにあたり、体力面ではそれほど問題はなかったようで、毎日の連戦にも耐えられるだけのものであったようだ。体力的に問題がなければ、あとは試合勘が戻るかどうかだけである。そこは世界ランク4位まで行った才能と経験の力が大いに現れたようである。やはり一流選手は、単なる年齢とかブランクだけでは論じることができない何かがある。


 たった1人の女子選手の出現で、それまではマイナー競技だったものが一躍注目されることになるのは、伊達が引退後の10年のうちに多くのスポーツで見られた。マラソン、卓球、フィギュア、ビーチバレー、バドミントンレスリング、ゴルフなどなどである。そこにテニスが入ってこないのが、伊達にとっては歯がゆい思いがあったのかもしれない。自分のことより、自分が刺激になって女子テニスにも世界に通用して話題になるような新鋭選手が出てきてほしいという思いだったのかもしれない。男子でいえば錦織のような存在である。ところが、あっというまに伊達自身が最も注目される存在になってしまった。この勢いがどこまで続くのか、多くの人が注目するところとなったが、やはり引退が早すぎたからといえるのだろう。