星野ジャパン惨敗と今後

 五輪の場には違和感があり続けた、日本のプロ野球による「五輪代表」だったが、予想をはるかに下回る惨敗に終わった。表面的には4勝5敗だが、もともとターゲットとしていた米国、キューバ、韓国には全敗、他国との予選も拙攻で接戦というものばかりであった。1戦だけ番狂わせで敗れたというならともかく、数字だけ見れば、明らかに実力負けの惨敗と言われても仕方がない。
 特定のプレーや采配などについての批判は、さんざん世の中で書かれているだろうから、少し冷静にこの結果と今後のことを考えてみたい。

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 チーム競技なのであるから、敗戦の責任は当然ながら首脳陣にある。一夜明けて「喝!」の張本は「星野を買いかぶりしすぎ。他のコーチも何をやっていたのか」の一言であった。これはマスコミにも責任があるだろう。アテネ五輪前には、長嶋監督が倒れた頃から星野コールで盛り上げていた。結局この頃からの記事になる「マスコミの期待」が、長嶋監督後のスポンサーを呼び込む効果となったのだろう。それが「長嶋ジャパン」の連呼から今度は「星野ジャパン」の連呼になった。どんどん星野監督の名将としての期待がバブルのように膨らんでいった。結果としてみれば、プロ選手が星野監督の下で一丸となることはなかった。今になってみれば、アテネ五輪のときは長嶋監督のカリスマ性が生きていたし、WBCのときは王監督の品格とイチローのリーダーシップがそれを可能にしていた。星野ジャパンにはそれが首脳陣にも選手にもなかった。


 そしてコーチ陣に長年の夢だった友人でもある田淵、山本を据えた。星野監督としてはやりやすいスタッフだったが、コーチというより3人監督がいるようなもので「船頭多くして・・」や馴れ合いになる危険もあった。実際、戦力分析だとか実務面で働けるスタッフとも思えなかった。ストライクゾーンがどうのと、その場に行ってから面食らうものでもないだろう。ましてやどの国も条件は同じである。


 結局、選手だけでなく、監督、コーチの選定からチーム編成が悪く、結果として個々の選手の能力はともかく、コミュニケーションもまとも取れずに、チームとしての力は全く出せなかったということであった。高校野球を手本にしろ、とさえ言われても仕方がない。それほど「プロ」の仕事としては、お粗末な結果としか言いようがない。アマチュアならば「今回の悔しさをバネに次に繋げる」ということもあるだろうが、結果がすべてであるはずのプロとしては今後に繋がるものは何もなかったといっても過言ではない。


 そして今回の五輪での敗戦の影響である。日常のプロ野球の勝敗などは、一部の熱狂的野球ファン以外はどのチームが勝とうが負けようが関係はない。しかし国民がこれだけ注目している五輪の場での失望感は、ただでさえ凋落傾向にあるプロ野球の今後に決定的なダメージを与えかねない。金メダルを獲得したソフトボールなどは瞬間最高47.7%ものテレビ視聴率を叩き出したのだという。この裏返しの失望感を与えたのがプロ野球ともいえるかもしれない。結局、星野ジャパンやプロ野球機構は、五輪の意義を単なる国際試合というだけで、五輪の影響力を最後まで理解できていなかったような気がしてならない。わざわざアマ野球を五輪から締め出してまで参加して、何も成果を得ることはできなかった。それどころか、今後のプロ野球への逆風はきわめて大きくなることだろう。


 プロ野球報道に頼る部分が大きく、さんざん星野ジャパンを持ち上げてきたテレビやスポーツ紙をはじめとするマスコミも、言い訳のきかない敗戦に対して正面切って批判などできるはずもない。早くも話題を来年3月の第2回WBCへと持って行きたがっているようである。五輪のリベンジをWBCで、というわけであるが、ちょっと待ってほしい。五輪とWBCは全く別物である。WBCはメジャーリーグが主催するお祭りにすぎない。各国からメジャーリーグに集まってきている選手を出身国別に分けて、オールスター戦みたいにやることが趣旨である。あくまでもメジャーリーグ自体を盛り上げるためのイベントの1つに過ぎない。日本でいえば東西対抗のようなものである。五輪のように、国の威信をかけてシャカリキになるものではないはずである。それを混同しているのか、五輪で野球がなくなって、話題転嫁の行き場がないのか、WBCで五輪のリベンジをとは恥しい勘違いとしか思えない。


 野球の人気を回復するためにWBCに期待するというのならば、今回の五輪のことは一切抜きにして、チームを作って参加した方がよい。極端な話、日本のプロ野球からの参加は不要である。今さら古い世代の指導者が「ワシらの時代はすごかった」と先輩面をして出てくる必要は全くない。
 それこそ野茂を監督兼投手にして、投手コーチ桑田、佐々木、守備走塁コーチ新庄(笑)にして、イチロー、松井、松坂、城島はじめ日本人メジャーリーガーだけのチームを組んで、お祭りに参加すればよいのである。ただし、それが日本のプロ野球の人気回復にはならないだろう。それだけ五輪敗戦のダメージは大きかったのである。