IPv4アドレスの枯渇は望むところ?

 IPv4のアドレスが枯渇することが言われて久しいが、少なくとも国内ではあと3,4年で割り当てるアドレスがなくなるカウントダウンの状態になっている。日本のインターネットの父ともいえる村井純教授が「いよいよ日本の腕の見せ所」と発破をかけている。これで本当に腹を決めてIPv6への移行が本格化することになるのだろうか。

IPv4アドレスの枯渇、「むしろ武者震い」と村井純教授(INTERNET Watch)
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 村井教授といえば、IPv6の研究は進んでいるものの、国内ではIPv6へ移行しようという気運が沸いていないと、消極的ななことを述べていた時期もあった。いよいよ2011年頃に枯渇が現実化するというタイムテーブルを示されたことで、危機感を募らせ、その気運を高めることができると考えたのかもしれない。


 「日本の技術力を」ということであれば、オリンピックの開催に似たようなところもある。4年後の開催が決定して、それに向けていろいろな開発やインフラの整備が進むというものである。実際、1964年の東京五輪では、新幹線やら高速道路やら、その後の日本の高度経済成長をもたらすことになったインフラが整備され、日本の技術開発力も格段に高まったことになる。これも五輪開催年までというタイムリミットがあったからこそ、多くの人がその目的に向けて突き進んだということであった。夢よもう1度ではないが、2016年に東京五輪をと言っているのは東京都の知事ばかりで、あまりそうした気運が高まっているとは思えない。


 一般ユーザにとっても、インターネットは現時点で普通に使えていることから、IPv6への移行といってもあまりピンとくる人は少ない。携帯電話の電話番号が不足してきたといっても、電話会社が勝手に電話番号の桁数を増やすだろうというくらいなものである。直接利害に関わってくるのは事業者だけである。事業者が事業を続けられなくなるという危機感を持ち、なおかつそれがビジネスになって「ピンチをチャンスに変える」ことでなければ、自ら動き出すことはないだろう。たとえば、地球温暖化対策のためのCO2削減というだけではビジネスにならない。省エネ型の新製品の開発のよる他社製品との差別化、環境問題に関して社会的にも貢献している企業というイメージ作りなどがあって、初めてビジネスにもなる。


 それがIPv6移行対策に貢献する企業というだけでは、ビジネスになりにくい。2011年ということでは、同じ総務省が関わることではテレビの地デジへの移行がある。これも電波の周波数帯の割り当てが少なくなってきたので、国が強制的にデジタル移行を推進する。テレビがほぼ100%普及している国内の一般家庭には、強制的にテレビを買い替えさせることになる。最近さかんとCMで地デジ移行を正当化して宣伝しているが、これはひどい話ではある。


 同じようにIPv6に対応したたハード、ソフトに買い揃えなければ、ある日から突然インターネットは利用できなくなります、それまでに必ず新しいPCに買い換えましょうとしたらどうなるか。それならメーカーや事業者にとってはビジネスになり、IPv6移行に突き進むことになるだろう。しかし、そうは行かないのである。そこがIPv6への移行の難しさがあるところである。ましてインターネットは国内だけの標準でなく、常に世界の標準を意識していなければならないだけになおさらである。


 期待される日本の技術力が発揮されるには、そうしたビジネスになりうる動機付けが必要だと思われるが、それがないままにIPv6が言われ始めてから10年ほどたっても、具体的な動きが見られない理由であると思われる。地デジ移行の2011年には、果たして国内でIPv6も急速に広まっているということになるのだろうか。