従来型ノートPCとの境界がなくなるネットブック

 ネットブックの流行で、従来型ノートPCの存在意義があいまいになりつつある。ベンダーにとっては下手をすれば、従来型で799ドルだった売り上げが単に399ドルに下がるだけで、自分で自分の首を絞めるだけになるかもしれないという懸念である。これにはいくつかの要因がからんでいると思われる。OSの問題、Web2.0シンクライアント、モバイルとスマートフォンSSD、バッテリーなど、そして金融危機のよる景気後退である。

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 当初はどちらかというと玄人ユーザ向きで2台目以降のサブノートPCの位置づけだった。だからむしろLinux搭載機でも一向に構わなかった。むしろクライアントLinuxの1つのジャンルをなすのではないかとも思われた。そこにMicrosoftWindowsCEではないが、モバイル的ノートPC市場に入り込みたいがために、強引にWindowsXPのプリインストールを安価な価格でねじこんだ。すでにVistaへの移行を推進していたはずなのに、慌てて逆行したようなものである。Eee PCが出始めの頃、Let's NotesのVista搭載機(メモリ1GB)が店頭価格で20万円ほどで並んでいて溜息が出た記憶がある。パフォーマンスに対してのコストを想像してのことである。


 一方ベンダーとしては玄人向きだけでは市場が限られるとみたか、一般ユーザでも買えるようにXPの搭載に乗ったことになる。結果的に、これが従来型ノートPCとの境界をあいまいにすることに繋がった。1年のうちにほとんどの大手ベンダーも参入して、すっかりノートPCの1つのジャンルを形成した。しかもXPを入れたために、従来型ノートPCとの区別をベンダー自身が難しくしてしまった。多くの一般ユーザを取り込むには、多くのWindowsアプリも入れて、HDD容量も大きいモデルを出さなければならない。SSDだけでなくHDDのモデルも出さざるをえない。従来型との違いといえば、当たり前だが小さいこと(画面やキーボード)と、OSがXPであることくらいしか説明できないだろう。


 そのOSもWindows 7になれば、Microsoftが必死になるだろうから、ネットブックでも普通に動くことになるだろう。ネットブックなど想定もしていなかったVistaを飛ばして、ということになる。これは今度は既存のネットブックXPユーザを混乱させることにもなるかもしれない。かくしてネットブックと従来型ノートPCの差は、小さいということ以外になくなることになる。そうなればあとは価格だけで、20万円近くのノートPCに代えて、ネットブックなら3,4台買えることになってしまう。個人ユーザなら好きなものを買えばよいが、組織への導入を企画する人間ならどう判断するか。そこに金融危機のカウンターパンチである。自ずから結論は見えている。


 自分は当初からネットブックにはLinuxが向いていると思っていた。それはOSの選択というより、ネットブックシンクライアント的に用いるべきであり、多くのデスクトップアプリを入れて使うのではなく、Webサービスを中心に利用するべきものということである。セキュリティを考えれば、公私の区別をあいまいにWinnyを入れて情報流出させたなどという低俗のことも起こりえない。ただ、クラウドなど外部との接続は常に必要なものとなっていく。かつて提唱された「ネットワークコンピュータ」の姿を変えた実現だと見ることもできる。デスクトップPCや従来ノートPCでは重装備すぎて、なかなかこのような形にはできない。


 ところが市場原理が働いてか、こぞってWindowsネットブックに入れて、各ベンダーともいろいろなモデルで出すようになった。解釈はさまざまだろうが、結局は、自ら従来型ノートPCの市場を狭めることになっただけだろう。Microsoftワールドに染まっている限り、これは避けられないことになる。むしろ差別化したいのなら、Windowsを別売りにしたモデルでも出せばよいと思える。