ボルト、驚異の9秒58の世界新記録

 世界陸上100m決勝で、ウサイン・ボルトが世界中の誰もが驚く9秒58の人類史上の記録を達成した。北京五輪での9秒69の記録にもかなり驚かされたが、それ以上にこれは本当に人間の記録なのかと疑うほどの衝撃である。

驚異の速さ!ボルトが9秒58の世界新/陸上(SANSPO.COM)
北京の衝撃から1年…ボルト伝説、さらに加速
ボルト、スタート克服で進化/世界陸上
世界新ボルト、時速44.6キロ/世界陸上

 確かに陸上選手としては高身長だけにスライドは大きいだろうが、足の回転や反射神経はまた別である。いろいろな資質が重なり合った結果が、この記録を生み出したといえるのだろう。誰でもが同じトレーニングしたからといっても、決して到達することはできない神の領域といってもいいかもしれない。


 北京五輪のときはゴール際で流しているような走りで、あれを全力でゴールを駆け抜けていたらとも言われていたが、今回は最後まで2位となったタイソン・ゲイが追い上げたこともあって、ボルトもゴール際でも力を抜かなかったように見えたが、それでもまだ余裕があるように見えた。上位3人が9秒58、9秒71、9秒84で、上位5人までが9秒台だったというから凄まじい。もはや9秒9台すら平凡な記録になったようだ。


 思えば100mの記録では、1988年のソウル五輪で、ベン・ジョンソンが9秒79の記録を出したときが驚きだった。しかし翌日には、ジョンソンはドーピング違反が発覚し、金メダルは剥奪され、世界記録は幻となった。2位だったカール・ルイスが金メダルに繰り上がり、世界記録は9秒92になった。その後、ジョンソンの幻の記録は10年以上、更新されることはなかった。事実上これが100mの記録の限界ではないのかと思われた。そしてカール・ルイスらの華やかさより、ジョンソンの記録の暗い影の方が、記憶には残るようになっていた。今回、やっとそれから解放されたような気もする。


 昨年から、当時の記録からあっというまに突き抜けることになった。ボルトばかりでなく、ゲイ、パウエルの存在も大きかった結果だとも言われる。もしボルトがいなかっったら、ゲイもパウエルも人類の記録を塗り替えた存在になっていたはずである。


 さて、100mの記録の限界を伸ばすことはどこまで可能かという議論が再び出てきている。原理的には9秒4秒台までも可能ではないかともいわれるが、このままボルトが一気に記録を伸ばすか、それが不可能なら、少なくても10年以上は他の人間には記録更新は不可能になるかもしれない。水泳は水着の改良で世界新が続出したが、陸上は、すでにシューズやウェアの差で劇的に記録が変わるとも思えない。特に短距離は、もう限界に達していると思っていただけに今回の衝撃も大きかったわけだ。そして、また忘れた頃にでも、思いもかけない記録が生まれることを期待したい。



Usain Bolt beats Gay and sets new Record - from Universal Sports

TBS「世界陸上ベルリン」男子100m決勝 ハイライト動画
http://www.tbs.co.jp/seriku/movie/kmovie.html?playlist=atm0011_010