日本人3人にノーベル物理学賞

 これは凄いことだ。日本人のノーベル賞全体で見れば、これまでの受賞者に3人加わった(化学賞も今日1人受賞した)ということだが、純粋な素粒子理論での受賞となると、戦後の湯川秀樹朝永振一郎以来となり、それも一気に3人受賞、今年の物理学賞を独占ということだから、歴史的快挙というべきであろう。

ノーベル物理学賞に日本の3氏 素粒子理論に貢献 (NIKKEI NET)
「30年間待ち続けた賞をいただいた」 ノーベル賞の南部氏が会見

 自分も物理学を勉強したことのある身だけに、この受賞の価値はある程度わかる。学生時代の思い入れでいうと、やはり南部陽一郎氏の受賞が一番感慨深い。すでに87歳でも矍鑠としており、日本の頭脳、世界の頭脳であり続けていることをうかがわせる。受賞対象となった業績はすでに50年前のものとなっており、健在であったからこそ受賞可能だったともいえる。毎年のノーベル賞の選考対象もホットな研究課題に対する貢献に対するものと、長年のあるいは過去の業績がようやく認められてのものと両方があるようである。今年の受賞の3氏は後者の対象として認められた形である。


 それにしても50年前といえば、湯川、朝永の受賞とさほど時代的には変わらない。この分野の受賞者が多すぎたために後回しにされてきたのか、日本人のためになかなか推薦されなかったのかはよくわからない。ただ湯川、朝永同様に、南部氏の自発的対称性の破れ」はその後の理論の発展の指導原理のようになっているのが価値のあることのように思える。


 学生時代は南部氏の著作も結構読んだ記憶がある。晩年のアインシュタインと面談したことがあって、そのときの印象としてアインシュタインの言うことの半分は確かに正しいが、あとの半分は結構間違っていることも多い。結局アインシュタインが生前に言っていたことはプラスマイナスゼロではないか、などというものもあった。


 講演を直接聞いたこともある。印象深い言葉が "Old Wine in New Bottle" である。新しいワインには新しい皮袋を、をもじった言葉だが、日本的に言うと「古きをたずねて新しきを知る」ということなのだろう。どんなに新しい理論に見えてもその元になっている古いアイデアがあるはずだ、ということなのだろう。これは朝永氏が研究には「必ず元となった原論文を読むこと」と言っていたことにも相通じるものがある。


 益川・小林両氏のクォーク理論への貢献の内容についてはよくはわからない。この分野は多くの受賞者、候補者がいたはずだからである。またノーベル賞には届かなかったが同様の理論を考えていた日本人研究者も、クォーク理論が登場した30-40年前にもいたはずだからである。

 今回は50年前、30年前の業績に対する受賞となったが、その後に引き続く30年の間の日本のこの分野への業績で続くようなものは、果たして出ているのであろうか。