Amazon S3は本当に安いか?

 現状ではトップを走るAmazonクラウドサービスだが、仮想サーバーのAmazon EC2と合わせてストレージサービスであるS3と組み合わせて使うことは必須のようである。自前でサーバーを持つか、従来のレンタルサーバーのコストと比較してどうかという議論が沸き起こっている。現実に導入しようとすれば当然の議論ではある。ただAmazonだけでなくクラウドは発展途上にあるから、後になってみればお笑い話になるという気もしないではない。

クラウド型ストレージ「Amazon S3」は安いか?(@IT NewsInsight)
Does Amazon S3 really save money?(Y Combinator Hacker News)

 実際の運用レベルになってみないと簡単には試算できないだろう。1GBあるいは1TB単位のストレージ容量単価を、現状で安くなったHDDの価格と単純に比較してみても仕方がない。価格だけでなく、なんとなくデータは手元に置いた方が安心という議論にも似ている。しかしその生きているデータを維持、管理するための費用はシステム環境や人的環境にもより一概にはいえない。何より人件費が一番大きいということは往々にしてある。HDDの価格は安くなっても、バックアップやセキュリティなどに対処できる有能な管理者を置こうとすればむしろ費用は高くつく。HDDを机かロッカーの中に入れて保管しておくのとは訳が違うのである。


 またデータセンターに預けるのと比較して、という話は、まさにクラウドと従来システムとの比較のクリティカルな問題である。データセンターといってもピンキリであろうから、どのデータセンターでも同じというわけにはいかない。しかしAmazonは、どんなシステムに対してもサービスは均一である。クラウドが発展すれば、データセンターが不要になるのではと危惧される理由がここにある。


 コストもさることながら、最大の問題は既存のサービスやデータをいかにクラウドに移行できるかどうかであろう。これは自前のサーバーやデータセンターに預けていたサーバーを、そのままクラウドに移せるという単純なことではないだろう。既存のデータは維持しつつも、サービスとしては新しい形にして再出発するべきものであろう。そのときサービス内容やパフォーマンスが向上し、なおかつサーバーの維持管理にかけていた労力が軽減されていれば、本当にコストに見合ったものになるだろう。


 何でも初期の頃は、既存のものと比較しての否定的な議論もなされる。インターネット初期の頃は、既存のパソコン通信と比較して、どちらが役に立つかなどという議論があった。パソコン通信に比べてコンテンツが少ないといわけである。今では笑い話どころか、パソコン通信のことすら知らない世代の人が増えた。クラウドもインターネットの新しい姿ともいえるわけで、出始めのサービスの形態だけを捉えて批評しても仕方がない。また現実的には、過度期には既存サービスと併用して運用してみるのも当然のことである。損益分岐点からいっても、初期の頃はある程度の投資的部分が必要なことは当然である。初めから得だけ考えていては、新しいことは何もできないだろう。要はそこに可能性を見出すかどうかであろう。